A requiem to give to you
- 崩落への序曲(5/13) -



「もし、それが本当だとしたら……確かに街一つくらい吹っ飛ばせるかも」



レジウィーダは超振動を見た事はないが、知識としては知っていた。一つ一つは弱くとも、数を重ねれば強く響く……まさに音と同じだ。本来なら二人以上で起こせるそれを、知識のない人間が制御もままならず単独で放ちでもしたら……最近は地震も頻発しているというこの街は瞬時に滅びてしまう事が理解できた。



「それを止めるって事は、ルークに力を使わせないって事なんだろうけど」

「ヴァン謡将がいるなら、かなり厳しいわね」



地下牢での話では、ルークに超振動で瘴気を中和させると言っていた。だがしかし、基本的に外れないと言われている預言でここまでしっかりと詠まれているのだ。それにレジウィーダやヒース、そしてティアの言動から、ヴァンを本気で信用出来るともタリスは思ってはいなかった。

ルークはヴァンに依存とも言えるほど、絶対的な信頼を置いている。彼の置かれていた環境上、仕方のない事だったのかも知れないが……。



「ねぇ、レジウィーダ」

「ん? どうしたのタリス?」

「知っているのなら、これだけは教えてほしいんだけど」



そう言うとレジウィーダは「うん」と話の続きを促す。



「もし、周りに嫌な事しかしないような人たちの中で、たった一人だけ自分を受け入れてくれる人がいたら……どう思う?」



ルークは自分に似ている、とタリスは思っている。それは今も変わらない。だけど思い返せば、彼の環境はあまりにも……異常なのだ。

タリスに問われ、レジウィーダは迷いなく真っ直ぐに彼女を見返しながら答えた。



「側にいようと思うだろうね。大好きだって、思うよきっと……本来、知るべき暖かさを知らないのなら、より強く」

「そう、よね……」

「あとは………何かとても大切なモノを失った時とかも、かな」



次いで言われた言葉にタリスはハッとしてレジウィーダを見るが、彼女はさして気にした様子もなく続けた。



「タリス。君の仮説は合ってるよ。ヴァンはルークに自分を、自分だけを信用させて、その上で己の計画に利用しようとしている」

「!!」

「と、言う事は……やっぱり、ヴァン謡将との戦いは避けられないって事だよな」



下手をすれば、彼を信頼しているルークとも。そう危惧するヒースにレジウィーダは頷いた。



「その前にルーク自身をヴァンから遠ざけるか、考えを改めさせられれば良いんだけど……」

「無理だろうな」

「でしょうねぇ」



三人から見ても、やはりルークがヴァンと接触する事は避けられないだろう。「それでなんだけど」とヒースは一つの提案をした。



「僕やレジウィーダの能力って使えないかな?」

「あたしとヒースちゃんの?」



それに頷き、ヒースは続ける。



「僕のこの能力は前にも説明しているけど、自然と同調して操る事が出来る。レジウィーダ、君の能力については今まで聞いてこなかったけど、あの術の威力的にも君も自然に関するものだよね?」

「うん、そうなるね」

「なら、最悪ルークが超振動をぶっ放したら、街を破壊する前になんとかその力を消せないかな?」



ヒースの力でルークの放つ第七音素に同調し、威力を弱める。そこにレジウィーダの術で相殺する、と言う事なのだろう。



「多分なんだけど、第七音素との同調も出来るっぽい事はちょっと試してたんだ」

「え、そうなの?」



これにはタリスが驚きを示した。レジウィーダは初めは首を傾げていたが、やがてある事を思い出し「あ!」と声を上げた。



「もしかして、ケセドニアでルークがアッシュに操られたとか言ってた時のアレ!?」

「そう。前にアッシュがタルタロスで何かやってた時もそうなんだけど、あの時のルークも不自然な第七音素が出ていたから、試しに掴んでみたんだ。そしたら……なんか同調したみたいで二人の会話に入れたっぽいんだ」

「確かにそれが出来てるなら……ワンチャン行ける、か?」

「試してみる価値はあると思わないか?」



試すってよりぶっつけ本番だけどさ、となかなかに打算的な提案だが、可能性のある作戦だとも二人は思う。正直、今のこの人数ではアクゼリュスの住人全員を外へ連れ出している暇もないだろう。また、ルークを説得出来るとも思わない。……なら、力づくで止めるしかない。



「最悪、この場にいる全員が藻屑になって消える可能性もあるけど……ある意味では、私達らしいやり方よねぇ」



無茶苦茶なのはわかっている。しかし、異世界からこうして召喚されたり、普通ならない力が使えている時点で既に理は狂っているのだ。

少しずついつもの調子を取り戻しつつあるタリスのそんな言葉に、二人も笑った。



「違いない」

「そうだね」



よし、とレジウィーダは気合を入れるように拳を合わせた。



「問題は山積みだけど、やるだけやってみよう!」



レジウィーダのその声に、ヒースとタリスもしっかりと頷いた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







仲間達の元に戻ると、三人に気が付いたジェイドが声を掛けてきた。



「これから、第十四坑道へ行きます」



そう言って彼は下層の方にある坑道を指差した。その入り口からはかなり濃い瘴気が漏れ出ている。



「あそこに取り残されている人がまだいるみたいなんだ。それに、ヴァン謡将も先に入って行ったらしい」

「あーなるほど。だからルークはあんなに行く気満々なんだね」



ガイの言葉にレジウィーダがルークに視線を向けると、早く行こうぜと呆れる皆を急かしていた。



「ヴァンが行ったんなら、そこで何かする確率が高いかもね」

「そうね」

「とにかく僕達はルークから目を離さないようにしよう」



ヒースの言葉に二人も頷いた。



「うん……タイミングを逃さない為にも、ね」



そう言ったと同時にルークの「早く行くぞ!」とほぼ怒鳴り声に近い声が聞こえた。三人は顔を見合わせ、再度頷き合うといつでも戦えるように武器を出して仲間達の後を追った。



「うわー……い」



そして坑道の中へ入った瞬間、外よりもずっと濃い瘴気に全員が顔を顰めた。レジウィーダでさえ、普段のテンションよりも低くなってしまうのも仕方がないのだろう。



「これは……酷いですわね。こんな中に取り残されている人がいるだなんて」



ナタリアが悲痛な表情で呟く。その言葉にイオンやアニスも頷いたところで、レジウィーダは一人仲間がいない事に気が付いた。



「あれ? そう言えばティアちゃんは?」



色々と話し込んでいたのもあってすっかりと気が付くのが遅くなってしまったが、治癒術が使えるティアもここに来るものだと思っていただけに、いない事に驚いた。それはまたヒースとタリスも同じだったようで、辺りを見渡して彼女の姿を探していた。

そして、そんなレジウィーダの疑問にはイオンが答えた。



「ティアは、貴女達と合流前にヴァンと来ていた神託の盾騎士団の者に呼ばれて少し離れています」

「え……なんでまた」



ヴァンと来ていた、と言う時点で大分怪しい。訝しむそれを今の現状を放棄していると思われたのか、イオンは申し訳なさそうな顔をした。



「彼女の受けている極秘任務に関わる事なので詳しくはお話出来ませんが……ティアは責任感の強い女性です。確認し次第すぐにこちらに合流してきますよ」

「あ、いや別にティアちゃんを怒ってる訳じゃないよ。それにティアちゃんが無責任だとは思わない」



ルークとはまた違った世間知らずな部分があるせいかどことなく空回りしがちだが、彼女は彼女なりに自分の信念に基づいて平和の為に行動しているのは、短い間ながらも一緒に旅をする上でレジウィーダにもわかっていた。ただ、怖いのは……彼女が一つの考えに囚われがちな所だろうか。



(それが悪い方向に向かわなければ良いんだけど)



そんな事を思っていると、先程のレジウィーダの言葉に安心したのか、イオンは安堵したように息を吐いて言った。



「ありがとう、レジウィーダ」



それに言葉を返すことなく、ゆるく微笑むだけに留めた。

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