A requiem to give to you- 不協和音と夢想曲(4/5) -
「正直、わからない。と、言うか……レジウィーダの言葉を鵜呑みにしてたら、そもそもあいつからあんな言葉を出てこないだろ」
レジウィーダが嘘をついている事は、二人は直ぐに気が付いていた。少なくとも、"孤児"と言うのは事実とは違うのだろう。恐らくフィリアムは宙が失った"記憶"について、何かしらの関連があると踏んでいる。
「問題はレジウィーダとグレイがどこまでわかっているのか、だろうけど」
「あの感じだと、今は無理でしょうね……」
理由はわからないが、少なくともルークやジェイド達がいる現状では話せないのだと思う。況してや当事者の一人であるグレイもいないのだ。それに今色々と話された所で、直ぐにどうにか出来るようなことでもないのは二人とて分かっていた。
「取り合えず今は鉱山の街の事を何とかして、一度落ち着いたらグレイをとっ捕まえて話をするしかないな」
「………そうね」
ヒースの言葉に一気に気が重たくなるのを感じた。頭ではわかっている。いずれは、決着をつけなければならない事を。そんなタリスの様子に気が付いているヒースは静かに一つ息を吐いた。
「今直ぐに気持ちの整理をしろ、とは言わないよ。でも、君はもう少し自分と向き合った方が良い」
「わかってるわ」
必ず、答えを出す。出さなきゃいけない。でもまだ……時間が欲しい。懇願するかのようなその言葉に、ヒースは何も返さずにただ静かにタリスを見つめていた。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
日溜まりには四人の人がいた。焦げ茶髪の女の子と、黒髪の二人の男の子。三人とも、自分が知っている彼らよりも少し幼い。そしてもう一人は、三人より少し年上だと思われる黒髪の少年と青年の間くらいの男の人。
四人は楽しそうに話している。だけど、一人いない。日溜まりが一人分空いている。
気が付けば、自然にその日溜まりに手が伸びていった。その時、男の子の一人がこっちを向いた。
───遅いぞ!
言う事とは裏腹に、彼は笑顔だった。彼の声に他の三人もこっちを向く。
───やっと来たか
───もう、待ちくたびれたわよ
黒髪の男の子と焦げ茶髪の女の子も、溜め息混じりだがやはり笑っている。そして最後に青年が手を差し出して優しく微笑んだ。
───じゃあ、行こうか!
それが何かと重なった気がした。その手を取ろうと更に自分の手を伸ばした。だけど、
───うん!
横を通り過ぎた少女に、取られてしまった。青年と少し似た顔立ちの、黒髪の少女。恐らく兄妹だと思う。
少女が来た事で日溜まりは一杯になった。五人は嬉しそうに歩き出した。
『ま、待って……!』
追いかけようとした。……でも、足がまったく動かなかった。
大分離れた所で少女が振り返る。そして歪んだ笑みを浮かべて言った。
「君《偽物》の場所は、ここにはないんだよ」
何かが、音を立てて崩れた。それは自分の足場だった。
少女が、子供達が、日溜まりが…………遠くなる。
深い
深い
冷たい更なる闇に
堕ちていった……
パリン
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