A requiem to give to you
- 鏡合わせの濡れ紅(7/7) -



廃工場の出口にある梯子を降り、外に出ると雨が降っていた。 そう言えば朝メイドの一人が預言でにわか雨が詠まれているような事を言っていたわね、とタリスは頭の隅で思いながらも先を見る。

そこには以前、自分達がジェイドに捕まった時に乗せられた陸艦と後ろを向いている紅髪の男、六神将のシンク、黒い髪に黒い服を着た少年、その他の数名の神託の盾の兵士、そして……イオンの姿があった。隣で同じくそれを見ていたルークは剣を抜き放ちながら一目散に走り出し、叫んだ。



「イオンを返せ!!」



ルークが剣を振り下ろした瞬間、イオンの隣にいた紅の髪を持った男……アッシュが振り向き様に同じく剣を抜き、受け止めた。そしてルークの顔を確認すると嫌悪に満ちた顔で唸るように言った。



「………お前かっ!」

「なっ……!?」



そのアッシュの顔がはっきりと見えた時、声を上げたルークを含め彼に駆け寄ろうとしたジェイド以外の仲間達も驚きに目を見開いた。…………しかしそれは当然だろう。今、剣を交えている彼らはそっくりの域を超え、鏡合わせだったのだから。

皆が困惑する中、タリスはどこか冷静にルークとアッシュを交互に見ていた。その時シンクがアッシュに向かって口を開いた。



「今は導師が先だ」



アッシュは舌打ちの後ルークを睨み付けた。



「良いご身分だな。ちゃらちゃらと女を引き連れやがって!」



そう言ってイオンを連れてタルタロスへと入っていった。それに続いてシンクが入り、最後に黒髪の少年が乗り込もうとして一度こちらを振り返った。

そして目が合い、タリスの時は一瞬凍結した。



「…………………………………え?」



あの人は……そんなまさか………!



「タリス!?」

「……!?」

「待ってっ、貴方は……!」



呆然とするルークの横を過ぎ、突然彼に向かって走り出したタリスに気付いた少年は急いでタルタロスへ入った。そして直ぐにハッチは閉まり、発進した。



「……………」

「タリス?」



誰かが声をかけた。だがタリスは決して振り向かず、行ってしまったタルタロスを見つめたままだった。



「  」



思わず呟いた彼の人の名前は言葉にならず、雨の音にかき消された。



(ああ……これはきっと、天罰だ。あの人との約束を破り、皆を傷つけた私への……)



やがて雨は上がり、空には鮮やかな虹が出来ていた。











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