A requiem to give to you- 黒銀と白金(7/8) -
「な、何だこれは…」
「わかんない。……でもちょっと危険かも」
レジウィーダは冷や汗を掻きながら目の前の物体を見た。それと同時に反対側にいたフィリアムは、突然の邪魔者に舌を打つと薙刀を振り上げ物体に斬りかかった。
「はぁっ!!」
ベチャ…
しかし物体は斬れる事なく、気味の悪い音を立てて刃の部分を呑み込み始めた。
「何!?」
「フィリアム! それから手を離せ!」
レジウィーダが叫ぶが、物体がそれを呑み込むスピードは速く、すでに彼の腕の半分を呑み込んでいた。フィリアムは必死で抵抗したが、それが逆に呑み込む速さ増す結果となり、
「くっ……わぁっ!?」
「フィリアム!!」
完全に呑み込まれてしまった。レジウィーダは顔を青くして叫び、ヒースは物体が大量の油を纏っている生き物である事に気付くと直ぐに彼女へ振り返った。
「レジウィーダ、アイツの周りに着いている油を取り除け!」
「ど、どうやって!?」
「炎系の術を使うんだ!」
「……わかった!」
レジウィーダは頷き、片手を振り上げて瞬時にマナを収束させた。
「イラプション!!」
下から吹き出るマグマで物体の油を溶かす。するとそこから本体が出てきた。
「こいつが正体ってわけか……」
ヒースが目の前にいる巨大な蜘蛛……アヴァドンを見ながら呟いた。アヴァドンの足元には大量の糸と取り除き切れなかった油で身動きが取れなくなっているフィリアムがいた。
「フィリアム! 無事か!?」
「………っ」
「今助けるから!!」
そう言ってレジウィーダはヒースに振り返ると、彼はやれやれと肩を竦め、直ぐに剣を構えて走り出した。
「本当に……人を探していただけでこれだ、よっ!」
ヒースはアヴァドンとの距離を一気に詰めて前足に斬りかかった。その間にレジウィーダも後ろに周り込むべく走り出す。
「くらえっ!」
風を纏った突きで攻撃するも、殆んど効いてないようだった。「ならば……!」と続いてヒースは剣に炎を纏わせて再度アヴァドンへと斬りかかる。
「ならこれはどうだ!」
「後ろからも行くよ! ファイアボール!」
敵の背後に周り込んだレジウィーダの攻撃も加わり、アヴァドンは一瞬だけ動きを止めた。
「! 今の攻撃が効いたみたいだ!」
「と言う事は……やっぱり火が弱点か!」
「フフーン、それなら飛びっ切りの行くゼィ☆」
レジウィーダはバックステップで下がり十分な距離を取った。
辺りは先程の炎技により第五音素で満ちている。これを利用しない手はない、とレジウィーダは先程はしなかった急速なエネルギー吸収を開始した。
エナジーコントロール、"炎"
「フレイムケージ!!」
放たれた第五音素は炎へと姿を変え、アヴァドンの足元にいるフィリアムを守る繭のように覆った。
「ヒースちゃん、あとは思いっきりやっちゃって!」
グッと親指を立ててレジウィーダは腕を突き出すと、ヒースは高く飛び上がった。
「鳳凰天駆!!」
その身に炎の衣を纏い、一気に降下して剣を突き出しアヴァドンを貫いた。
その瞬間、パンッと弾けるような音と、堅い物が壊れるような音共にアヴァドンは音素に還った。
「剣が折れたか…」
ヒースはアヴァドンがいた場所に落ちている剣先を見て呟いた。そしてレジウィーダを振り返ると、フィリアムに絡まっている糸を燃やしていた。
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