A requiem to give to you- 黒銀と白金(6/8) -
色素の薄い黒髪の髪を後ろで一つに束ねた少年、フィリアム・グラネス。神託の盾騎士団六神将補佐にして、グレイの義弟で、レジウィーダのレプリカである。
「……何でフィリアムがここに?」
「さあ? 何でだろう……な!」
そう言うとフィリアムは薙刀を振り上げて斬りかかった。
「ちょっ……ヴァンの命令って所か!」
レジウィーダは攻撃をかわしながら呟いた。その間にもフィリアムは大きく弧を描いて更に斬りかかる。
「はぁっ!」
「〜〜っ、まったく厄介な相手を寄越したもんだな、あの栗毛侍め! 獅子戦吼!!」
ヴァンに悪態を吐きつつ、レジウィーダも攻撃を仕掛ける。フィリアムはそれをヒラリとかわし、レジウィーダの腹に柄の部分を思いっ切り叩き込んで吹っ飛ばした。
「がっ…………は!?」
「六神将補佐である俺に手加減なんてしてると……
死ぬぞ」
腹を押さえて膝をつくレジウィーダにフィリアムは絶対零度の視線を向けながら言った。
「アホか………仮にも弟を本気で叩きのめせる訳がないだろうがっ」
「相変わらず甘いよ、アンタ。戦いに兄弟も何もない。それに俺は……」
フィリアムは再び薙刀を構えて言い放つ。
「アンタが、大っ嫌いだぁっ!!」
「フィリアム……っ」
再び降り下ろされたそれを避け、悲痛に叫ぶ彼をレジウィーダは悲しげに見返した。
「それは、アンタがあたしのレプリカだからか?」
「そうだ! だからアンタがいる限り、この苦しみは止まらない!」
姿が違う、性格も、考えることも違う。レプリカだから、劣化だから………なんて事じゃない。けれど被験者とレプリカと言う繋がりが有る限り、フィリアムに降りかかる悪夢は続くのだ。
ならば…………断ち切るしかない。その為には、どちらかが消えるしかない。
「円満になんて終わらせるかよ。俺は俺である為にアンタを殺す!」
それが、彼の出した結論だった。レジウィーダは首を振って溜め息を吐いた。
「極論で単純思考。何だかんだでアンタとあたしって似てるんだね……………でも、あたしは死なないよ」
だって約束してるから。それを果たすまでは、死ぬわけにはいかないんだ。
「だから少しは頭を冷やしな! スプレッド!」
レジウィーダは水の中級魔術を放つ。それは容赦なくフィリアムに降りかかるが、彼は薙刀でそれを払い除けた。
そして薙刀を持ち変えると短く何かを唱えた。
「アピアース・グランド!」
叫んだと同時に第二音素の譜陣が彼の足元に出来る。
「頭なんて最初から冷めきってる。寧ろ冷静さを掻いたのはそっちだろ?」
「どう言う……っ!?」
疑問を口にしようとしたレジウィーダの言葉は続かなかった。譜陣から溢れ出る音素はフィリアムに集まり、やがてその形を変えた。
「その術……!」
「俺を止めたいのなら、能力でも何でも使えば良かったんだ。でもアンタは使わなかった。だから、俺が使わせてもらう!」
エナジーコントロール、"地"
「グラビティドライブ!」
術が発動した瞬間、レジウィーダは何かに押し潰されたかのように固い鉄の床に叩き付けられた。
「……ぐあっ!」
フィリアムはここに来て初めてフッと口許を上げて笑った。
「自分と同じ力にやられるってどんな物だ?」
「…………っ」
レジウィーダは息が止まりそうなくらいの圧力を耐えるのに精一杯で、彼の声は殆ど聞こえてなかった。
早くも床は限界を超え、大きく凹んでいる。それでも彼女の身体が潰れないのが不思議なくらいだった。
「これで終わりだ……」
更に重力をかけようとフィリアムは腕を振り上げた。
…………が、しかし
バチンッ
「!?」
腕を振り下ろす直前、弾けるような音が聞こえ、 次第にレジウィーダの周りの重力が軽くなった。
「誰だ!?」
「それはこっちのセリフだ」
その声にフィリアムが胸を押さえて咳き込むレジウィーダの方を見ると、彼女の隣に剣を構えたヒースが立っていた。
恐らく彼が能力で無効化したのだろう。
「まったく、君は本当に厄介事ばかり生み出すよね」
ヒースは溜め息混じりにレジウィーダに言った。それに言われた本人も苦笑した。
「あはは……ごっめんごめん……」
そんな彼女の無事に内心安堵しつつ、ヒースはフィリアムを振り返り怒りの宿す瞳で睨みつけた。
「それで、よくもまぁ大切な幼馴染みをいたぶってくれたものだな」
「…………」
その時一瞬だけフィリアムの表情が悲しそうに歪められたが、周りが暗い為ヒース達にはわからなかった。
「このお返しはたっぷりとさせてもらうぜ!」
ヒースが駆け出し、フィリアムが薙刀を構えたその時、レジウィーダは上から妙な気配を感じ取り、慌てて叫んだ。
「二人とも危ない!」
「「!?」」
ドォォ……ン
咄嗟に二人が避けた場所に、ドロドロとした紫色の物体が落ちてきた。
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