A requiem to give to you- 黒銀と白金(4/8) -
すると突然場面が変わった。目の前には、先程の少年がいる。ただ違うのは、彼が真っ赤に染まって倒れていると言うこと……………。
『─────……っ、!?』
あまりの衝撃に声が出なかった。さっきまで嬉しそうに、幸せそうに笑っていた彼が、…………何故、こんな事に。
『嫌だったのでしょう?』
聞き覚えのない女の声。
『どうせ直ぐに"なかった事"になる。なら、別にいくら手を汚しても構わないのではありませんか?』
先程とは似ているが、少し違うまた別の女の声が問い掛けてくる。顔を上げるが、目の前にある光が遮り、彼女達の顔が見れない。しかし、少年の姿はハッキリと鮮明だ。
何も出来ずに呆然と見詰めていると、血の気を失いつつある唇が微かに動いた。
『…───…─………──────』
何? 何て言って─────
「あの、どうしました?」
ハッとして目を覚ます。寝ていた訳ではない(と思う)が、慌てて立ち上がると、いつの間にか頭痛は治まっている事に気が付いた。
「あ………………」
消え入りそうなそんな声が耳に入り、そちらを振り向くと、黒い衣装に身を包んだ白金の髪をした女性がいた。格好からして城か、ファブレ公爵の所に仕える者だろう。
どうやらこの女性が自分に声を掛けてくれたらしいが…………何故か女性は自分を見て酷く驚いたような顔をしていた。
「あの、何か?」
心配してもらっておいてアレだったが、どうしても気になってしまい問い掛けると、女性は恐る恐ると行った様子で口を開いた。
「あの、貴方は………昔どこかでお会いした事とかありませんか?」
「…………………え?」
これは少し予想外だった。一瞬その手の誘いかとも思ったが、彼女の目は本気である事が窺えることから、恐らくそれはないだろう。
しかしどの道自分は彼女とはこれが初対面なので、素直にないと答える。
「そうですか…………そうですよね」
女性はどこかホッとしたように笑うと、今度はフィリアムの格好を見て首を傾げた。
「あら、貴方も神託の盾騎士団の方なのですね」
「貴方も?」
「あ、いえ。先程私がお仕えしているお屋敷にいらしたお客様にも神託の盾の方が何人か居られまして…………」
それは恐らく導師達の事だろう、なんて思っていると、女性は更に言葉を続けた。
「貴方はそのお客様の一人によく似ていますね」
「多分それは………一応、姉………です。だから似てるのも仕方がないですよ」
でもこれで彼女の疑問は解けただろう。しかもレジウィーダと面識があるのならば、あまりこの場に留まらない方が良いのかも知れない。
そう思ってその場を後にしようとすると、とんでもない力で腕を捕まれた。
「いっ…………」
何て馬鹿力だと思わず女性を見れば、彼女には先程までの優しい雰囲気はなく、まるで射抜くような視線で睨み付けてきた。
「弟……? 彼女に弟がいるだなんて情報はありませんでした。…………貴方は、
貴方は一体誰ですか?」
誰ですか。普通ならば何で初対面の人にこんな事を言われなくちゃならないだとか、情報ってなんだとか、色々と聞くべき事はあったのだろう。しかし今のフィリアムにはそんな疑問など浮かぶ余裕などなく、ただ、問われた言葉だけが頭の中を支配していた。
(誰、だって…………? 俺が誰だなんて……………)
そんなの、
「俺が、俺が一番知りたいよ!」
気がつけば、そう怒鳴っていた。
「弟? 本人? 友達? 幼馴染み? どれでもない。どこに帰るのかもわからない。ただ、知らない記憶《夢》だけ持ってて、嫌味のように人に突き付けておいて、最後は自分達だけ万々歳!? やるだけやって自分達は死ねばいい? 帰ればいい? そんなの勝手すぎるだろ!!」
気が付けばそんな事を言っていたが、何も知らない人から見れば頭のおかしい事を言っている様にしか見えないのだろう。言葉にしてみて、自分がこんな事を思っていたのだと初めてわかった。
これは確かな、怒りだった。
「貴方は、自分の存在に悩まれているのですね。そして、理不尽な環境に怒っている」
女性は冷静さを取り戻したのか、掴んでいた手を離して静かにそう言った。そして深く頭を下げた。
「ごめんなさい」
それにフィリアムは冷水を被ったような気分になった。
「な、何でアンタが謝るんだ…………」
「誰にだって触れられたくない事や、言われたくない事があります。私はそれに無下に扱い、貴方を傷つけた。謝るのは当然です」
でも、と女性は言う。
「こんな事を初対面の私が言うのは厚かましいとは思いますが、貴方がそれだけご自分の存在に悩まれているのなら…………変えてみては如何ですか?」
「変える?」
そう返すと、女性は頷き微笑んだ。
「人は誰でも望みを叶える力があります。貴方が望む貴方になれば良いんですよ。貴方はどうしたいのですか?」
どう、在りたいのですか?
「俺は……………──────」
フィリアムの言葉を聞いた女性………フィーナは嬉しそうに微笑んだ。
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