A requiem to give to you- 黒銀と白金(3/8) -
「貴方の役目は、我々を国王陛下に引き合わせる事。それが見事に果たされた」
「そっか……」
「しかし、貴方との旅は中々興味深かったですよ」
俯くルークにジェイドは目を細めて笑った。
「へっ……そうかよ」
ルークもどこか照れ臭そうに笑って返した。それに軽く微笑み、タリスは口を開いた。
「じゃあ、私とルークは奥様の所に行きましょうか」
「それなら私も一緒に連れて行ってもらえないかしら。…………その、今回の事を謝りたいから」
ティアがそう言うとルークは頷き、タリスはヒースとレジウィーダを振り返った。
「貴方達はどうする?」
「僕も一緒に行くよ。騎士団の方はガイさんが行ってるから、奥様には僕から報告しなくちゃいけないからな」
「あたしはグランコクマに用事があるからジェイド君に着いてくよ」
「あら、そうなの?」
また離れ離れになっちゃうわねぇ、と思わず呟くと、レジウィーダはタリスとヒースに抱き着いた。
「大丈夫。絶対にまた会えるから。だからそれまで、ルークを守ってて」
他の人達には聞こえないくらいの小さな声であったが、タリス達はしっかりと頷いた。
「勿論よ」
「必ず守るよ」
それを聞いたレジウィーダも頷き、最後に一言だけ、二人に耳打ちした。
「ヴァン謡将には気を付けて」
「「え……?」」
思わず二人でレジウィーダを見れば、彼女は二人を離して「今度話す」と口パクをした。
それからレジウィーダはイオン、ジェイド達と共に部屋を出た。
「どういう事だ?」
「…………………………」
レジウィーダ達が出ていった扉を見詰めながらヒースが呟き、タリスも無言で考えていると、ルークの声がした。
「タリスー、ヒースー。何やってんだよ、早く母上んとこ行くぞ!」
それに二人はハッとして頷いた。
「ああ」
「今行くわ」
数分後、久しぶりに再会した公爵夫人は歓喜と共に帰ってきた二人を強く抱き締めて泣いたのだと言う。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「暇だな」
「そう思うなら帰りなよ」
ふと呟いた言葉にシンクは呆れたように返してきた。彼と合流してから既に三時間程経つが、二人は何をするでもなくただそこに待機するだけだった。
「明日の朝に導師が来るんだよな?」
「さっきそう説明しただろ」
「まさかそれまでずっとこのままここで待ってるだけなのか?」
「…………そうだよ」
だから嫌なら帰れよ、と続けて言ったシンクにフィリアムは考える仕草を取ると、一つ提案した。
「少し休んでこいよ。どうせ俺も暇だし、待機だけなら交替で一人居れば充分だろ」
「でもアンタそもそも今回の任務に関係n……」
「何の為の六神将補佐だよ。こう言う時こそ部下に任せとけよ。どうせ朝まであと半日くらいあるんだから」
な、と押せば、やはり長く無駄に待機してるだけの時間に飽きていたのだろう。シンクは「わかったよ」と一つ溜め息を吐いた。
「直ぐに戻るけど、居眠りなんてしないでよね」
「うん。大丈夫だよ」
最近はあまり眠くならないんだ、とは言わなかった。シンクはフィリアムが頷くのを見ると踵を返してどこかへ歩いていった。
「………………………」
それから一時間ほど経ってからだろうか。ボーッと街を眺めていた眺めていたフィリアムは廃工場へと続く天空客車に違和感を覚えた。
「これは…………第七音素?」
先程までは感じられなかった微量の第七音素を捉えた。どういう事だと天空客車を見詰めていると、見覚えのある紅が乗り込んでいくのが見えた。
「姉貴?」
何故彼女があそこに向かうのだと疑問に思って乗り場まで駆けて行った時、急激な頭痛がフィリアムを襲った。
「……………っつあっ!?」
あまりの痛みに声を上げてしまった。近くにいた人達が何事かと見てくるが、面倒事は避けたいのか誰も声を掛けてきたりはしない。
「ぐっぅぅ……………な、んなんだよっ…………くそっ!」
歯がギリギリと軋むほど噛み締めて痛みに耐えるが、堪ったものじゃない。早く治まれと呪文のように心の中で繰り返していると、また頭の中で見たくもない光景が浮かび上がってきた。
『これ、俺からのプレゼント!』
そう言って嬉しそうに"こちら"を見て何かを手渡すのは、今までも何度か夢に出てきた黒髪の少年。見た目は今の自分と丁度同じくらいだ。
今までは他の奴らと一緒にいるところしか見ておらず、顔も朧気だった。しかし今はハッキリと見える。アレは…………
(俺……………? ………いや、)
違う、確かに顔のパーツや背格好は似ているが、やはりどこか違う。アレは別人だ。
なら、アレは誰だ……?
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