A requiem to give to you
- 置き去りの時間(8/11) -


日の沈み始めた砂漠の町。夕刻になっても衰えない人の波に乗って歩くルーク達はその光景に息を吐く。



「ホンっとにスゲーよな。この時間になってもまだこんだけ人がいるのかよ」

「いや、寧ろこの時間は買い出しに出るから一番人が多くなるんだ」



と、ガイが答えるとルークは「ふーん」と言いながら再度辺りを見渡す。人は多いが、日中に比べて気温が下がった事によって、気候的には幾分か過ごし易くその足は軽やかだった。



「それにしてもぉ、新しい武器とか新調出来て良かったですね!」



アニスがルークの腕にすり寄りながら言うと、彼は慣れてきたのか特に振り払ったりする事もなく「そうだなぁ」と返した。



「ほぼ文無しで邸から出ちまって、木刀じゃ心許ないからって、ちまちまとモンスター倒しながらやっと貯まった金で買ったのが小さな村で売ってた安い剣一本だったからなー……」

「つか、よくそれだけであの修羅場を乗り越えられたもんだよなぁ」



ルークの言葉にガイが苦笑しながらそう言うと、今度はティアが口を開いた。



「でも、こうして今ここに居られるのは、その修羅場を乗り越えるだけの力があったと言う事よ。そこは自信を持って良いと思うわ」

「そ、そうかよ」



と、返しつつも、彼女から出た意外な言葉にルークは内心驚きを隠せなかった。しかし、そう言われて悪い気はせず、どことなく機嫌は良かった。

そんなルーク達が一件の店の前を通りかかった時、丁度店から見知った人物が出てきた。



「あれ、ヒース?」

「ん? ああ、君達か」



店から出てきたのは両手に沢山の荷物を抱えたヒースだった。その荷物は食材だったり薬品だったりと、旅の必需品が大半で、直ぐにルークの近くにいたガイが半分受け取っていた。



「ありがとうございます」

「どういたしまして。それよりも一人で買い出しさせちまって悪かったな」



ガイが謝ると、ヒースは首を横に振った。



「いえ、こう見えて結構この町を満喫してましたから」



ヒースがそう言ったと同時に、先程彼が出てきた店のドアが開いた。



「ヒース! 良かったまだいたな!」



出てきたのは茶髪の小柄な少年だった。彼の手には小さな袋が握られている。



「エチルド?」

「今日は来てくれてありがとな! これ、俺からのサービスだぜ!」



嬉しそうにそう言って手渡された袋の中身を見たヒースは慌てて返そうとした。



「え、ちょっと良いよ。只でさえ貴重なグミとか安くしてもらったのに。それにこれ………ミラクルグミだろ。今日買った物より高い物じゃないか」



一粒で数千ガルドするグミ。それが十粒は入っているだろう。それを聞いて黙っていなかったのはアニスだった。



「ねぇねぇヒース〜。あたし達ってまだ旅の真っ最中でしょ。確かに後は船に乗るだけだけど、確実に何もないとは言い切れないじゃん? 万が一にもルーク様vが怪我されたらアニスちゃん悲しいし、貰っておこうよ♪」



つか、貰え。耳元でそう後から囁かれ、ヒースは思わず口許を引き吊らせた。



「お、このチビわかってんな! ここは素直に受け取るが吉だぜ!」

「ムッ、チビって何よ! 同い年くらいの癖に、失礼ね!」



アニスが頬を膨らませながら憤慨すると、エチルドは一瞬キョトンとして豪快に笑った。



「あっはははっ! あー悪いなチビちゃん。俺、こう見えて今年18になったばかりなんだよな♪」

『え……………














えええええええええっ!?』



驚きの事実にヒースも含め、驚愕の声を上げた。



「お、俺と同い年だってのかよ!?」

「俺もてっきり導師と同じくらいだとばかり思ってたぜ……」

「………………」

「詐欺でしょ………詐欺すぎでしょこれぇっ!」



ルーク達は素直な感想を述べる。そんな彼らの道具袋からひょっこりとミュウが出てきて言った。



「ミュウ知ってるですの! こう言うのを"鯖を読む"って言うですの」

「煩ぇブタザル黙ってろ!」



そしてルークに殴られる、は最早お約束である。

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