A requiem to give to you
- 置き去りの時間(4/11) -


「このくらいかしら?」



そう言った彼女の指は四本立っている。これは果たして単位は如何ほどのものだろうか……。



「情報提供料、材料費、加工費、その他を締めてざっと40000ガルd」

「高ェよ!!」



まぁ、予想はしてたけどなッ



「そうかしら?」



全く持って事の重大さを理解していないタリスにグレイは頭を押さえて溜め息を吐いた。



「ったく、これだから良いとこのお嬢さんは………。昔っからそうだけど、本当にその金銭感覚の崩壊っぷりは直らねーよな」



出会った時から変わらない。突然何かを思い立つと、形振り構わずやりたがる。これだけならば例の馬鹿女と変わりないのだが、奴と違うのは彼女が何かを……特に己の財産を手にかける時は必ずしも誰かの為にしか使わないと言う事だった。このアミュレットだってそうだ。態々自分の為にこんな物を大金叩いてまで用意したのだ。



「つーか、コレって何に使えっての?」



アミュレットとは悪霊などの霊的な悪い力から身を守る為の護符と言われている。確かにタリスは霊と関わり深い能力を持っているようだが、それと何か関係があるのだろうか。そんな事を思っていると不意に彼女は立ち止まり、それからグレイを振り返り真っ直ぐと見ては苦笑を浮かべた。



「深い意味はないのよ。それだってただの御守りだし。そもそも40000ガルドと言っても、大半が情報を仕入れる為に使ったお金ですもの。その情報だって、何もあのお店の物だけな訳じゃないわ」

「でなきゃ困るわ」



それでも高い気がするが………とは最早言わない。取り敢えず今回は彼女のただの気紛れだった様で少し安心した。そう心の中で安堵するグレイを見通しているのか、タリスは小さく笑うと彼からアミュレットを奪い、緩い動作で彼の首に掛けた。



「まぁ、あって困る物でもないのだし、持ってなさいよ。その内何かしらのご利益があるかも知れないわよ♪」

「ご利益、なぁ」



まぁ、良いけど。そう呟くとグレイは首に掛かったアミュレットを服の中に入れた。そんな彼にタリスは小さく言った。



「気休めでも………少しでも心にゆとりが出来る方が、いい夢くらい見れるもの」

「? なんか言ったか?」



しかしそれはグレイには聞こえず思わず聞き返すが、タリスは緩く首を振って「何でもないわ」と返したのだった。



「それより、さっき私がお店に行っている時何を妄想していたのかしら?」

「は?」



ふと、ニヤリと笑って話題を変えてきたタリスに一瞬反応が遅れるも、直ぐに意味を理解すると彼女の言葉を否定した。



「妄想じゃねーよ。せめて瞑想っつえ」

「はいはい、………で、何を考えていたのよ」

「えー……………?」



先程までのやり取りですっかり忘れ去っていた思考の記憶を巡らす。確か夢見が悪いのは何故かを考えていた気がする。変な夢を見るようになったのはレジウィーダが原因であり、それを彼女に聞こうにもまともに会話が成り立たないだろうしとか、そもそも自分と彼女は最初から"約束"なんて交わす仲ではないとかを考えて………………






最初から?






「………そ、だよ。そうだ」



何で今まで気づかなかったのだろうか。よく考えてみれば、明らかにオカシイ事だらけじゃないか。だって………だってオレは、



「グレイ?」



突然目を見開いたまま固まってしまったグレイにタリスが訝しげに問い掛けるが、彼は動揺を隠せない瞳を彼女に向けて口を開いた。



「なぁ"涙子"。オレは初めてアイツに………日谷に会った時、何をしていたンだ?」



オレは、日谷といつ、どこで、どのように知り合ったのかを知らないのだ。






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