A requiem to give to you
- 置き去りの時間(3/11) -


タリスを見送り、一人残される事になったグレイは盛大に溜め息を吐いた。



「はぁ………何だかなァ」



最近、どうにも夜寝付けないでいた。目を瞑っても、羊を数えても、気晴らしに軽く運動してみても全く眠る事が出来ない。ただ眠気は来るのだ。夜に寝れない分、日中は気が付けばうたた寝している事はある。今日の船の上でもそうだったが、あれは久々に熟睡したような気もする(……が、いざ寝付けても妙な夢のせいで物凄くかっこ悪い姿を恋人に晒してしまった訳だが)

船の上で見た妙な夢。コーラル城やダアト港でも似たような物を見たが、思えば上手く寝付けられなくなったのはそのコーラル城以来である。己の身体ながら、何故この様に事態になっているのかが全くわからない。 ただ今度深く寝入れば、またあの夢を見る。確証も根拠も皆無だが、何故かそれは間違いないのだと自信だけはあった。



(一番確実なのは、あの馬鹿女に話を聞くのが良いんだろうけどな……)



先程の夢はともかくとしても、過去の白昼夢的なあれはどちらもレジウィーダがいた時に見たものだ。しかも、その夢に出てくる少女もまた今の容姿とは大分かけ離れてはいるが、間違いなく日谷 宙本人だと思う。ここまで来れば関係がないとは最早言えないだろう。だが、正直に言えば彼女と出会ってから、何か特別な事があったと言う事はなかった筈だ。ましてやあの少女の言う"約束"だなんて、交わした記憶などない。



(そもそも今までアイツとまともな会話すら出来てねーのに、約束なんてする訳ないだろ)



彼女とは大体が喧嘩に始まり喧嘩に終わるのが当たり前だった。たまに(本当に極たまーにだが)利害一致で協力(のような事)はするが、それでも元々が犬猿の仲と言っても良いくらい、いがみ合うのが己と彼女の関係だった。



(大体、アイツと出会った時だって………)



そこでグレイはふと思考を止めた。



「…………………あれ……?」

「あら、暑さでついにやられちゃったのかしら?」



凄い顔になってるわよ、と何の前触れもなく突然横から聞こえてきた声に心臓が飛び出そうになった。



「うぉ……まっ!? タリスッ、……いきなり吃驚させンなよっ」

「失礼ねぇ、人をお化けみたいに。折角貴方の為に拵えたと言うのに」



そう言いながらタリスはグレイに紐のついた宝石のような物を手渡した。



「これは?」

「アミュレットよ。可愛いでしょう」

「あのな、オレにそれの同意を求めたってどう答えろってンだよ」



呆れながらそう返せばタリスはわかってるわよ、と言いながら歩き出した。それに着いていきながらグレイはアミュレットをまじまじと見てみた。



「つーか、何でアミュレット? 態々こんなのを作る為に来たのかよ」



陽の光を浴びて碧く輝く水晶は先が尖っていて、触ると少し痛い。それを感じながら溜め息混じりに問い掛けると、タリスは得意気に笑った。



「フフン、こんなのだなんて馬鹿にするもんじゃないわよ。ここのお店は一見とても怪しいけれど、素材さえ持ち寄れば大体の物が手に入る……………………………らしいわよ♪」

「人伝の情報かよ!!」



思わずそうツッコミを入れれば、ホホホと返されてしまった。



「だって試したのもこの街に来たのも初めてなんですもの。当然じゃない」



でも、



「口コミはとても重要な情報源よ。それにこの口コミは表にはないような情報を提供している人達からの情報だから、信憑性はかなり高い方よねぇ」

「そらまた随分と割高な信憑性だ事で………………で、コイツに辿り着くまでに一体いくら使ったンだ? え?」



その問いにタリスに一瞬キョトンとすると、それから直ぐに指折りを数えるとニコッと笑った。

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