A requiem to give to you
- 陽炎と灼熱少年(7/7) -



「お前、何だ?」

「おれぇ〜ありじごくにん〜」



ありじごくにん。その姿と行動に違わない、変な名前だった。



(いや、それともそう言うキャラなのか?)



そんな事を考えていると、ありじごくにんはやはりクネクネしながら言った。



「おまえ〜アップルグミもってるぅ〜?」

「アップルグミ? あるけど」



そう言って先程買ったアップルグミを一つ手に取ると、ありじごくにんは両手を出した。



「アップルグミ〜くれぇ〜」

「まぁ、一個くらいなら……」



飢えてるのか、と若干失礼な事を思いつつもアップルグミをあげた。

すると、






ポイッ






ずずずずずずずずず……






「……………」



ありじごくにんは躊躇する事無くアップルグミを蟻地獄の中に放り投げた。ゆっくりと蟻地獄に飲み込まれてゆく様を何とも言えずに見送っていると、ありじごくにんは一枚の紙を渡してきた。



「…………?」



反射的に受け取ったそれはボロボロのヨレヨレで、砂まみれの紙だった。何かと思って見てみると…………レシピだった。



「しかも唐揚げとな………」



嬉しいのやら、悲しいのやら……。何とも言えない気持ちのまま、レシピをグミなどが入っている袋に押し込んでありじごくにんを見ると既にヒースに興味はないらしく、明後日の方向を見ながらまた延々とあの妙な動きをしていた。

ヒースは溜め息を吐いて踵を返すと、市場へと戻って行った………が、



「はいはいそこの素敵なお兄さーん、ちょーっと待ってちょーだいな♪」



突然誰かに肩を捕まれ呼び止められた。何事かと思い振り返れば、目の前には14、5歳くらいの少年がニコニコと笑っていた。



「何か用?」

「お兄さん、今日は運が良いね〜。本日はスペシャルデーでさぁ、『好薬堂アルマーズ』ではちょーっと珍しい薬が大特価なんだよね!」



どうやらこの少年は商人らしい。明るい茶髪に周りの商人よりもどことなく小綺麗で高そうな服。そしてこの無邪気な笑顔……何故だろう。見覚えがあるような気がしてならない。また少年の方もヒースを見て何か気が付いたのか「ん?」と首を傾げていたが、直ぐにハッとすると勢い良く彼の両腕で掴んだ。



「おまっ、確か前に会った! えーと……ジャムカだっけ!?」

「全然ちげぇよ」



誰だよそれ、と思わず突っ込みを入れると少年は苦笑いしながら謝った。



「あ、ごめんごめん間違えた! えーと……確かヒース、だったよな?」

「そうだけど……君は?」



どうやら知り合いで合っていたらしいが、いつどこでどこで会ったのか思い出せずにそう聞くと、少年は少しむくれながら言った。



「何だよー忘れたってのかぁ? あんなに刺激的な体験をした仲だってのによぉ」

「そう言う君も半ば忘れてたよね」

「う……それは言わないのが暗黙のルールってやつよ!」

「いやどうでも良いし。とにかく名前を教えてくれよ」

「お前な……」



ガクッと少年は頭垂れたが、直ぐに持ち直すと漸く名乗った。



「俺はエチルド・アルマーズ! 去年、人攫いの一団のアジトで会ったろ?」

「ああー……あの時の」



一時、世間を騒がせた誘拐事件。人攫い……もとい人身売買の一団はファブレ邸にも現れた。狙いはルークだったが、その際彼を庇い自身が誘拐された先で出会ったあの少年は確かにエチルドだった。



「久し振りだね。そっか、君は商人の息子だったのか」

「へへっ、まあな! まーなんだ、折角会ったのも何かの縁ってね。ちょっとウチの店に寄って来なよ、安くするからさ!」



再会を喜び、鼻を擦りながら嬉しそうに笑うその姿は照りつける太陽とよく似合う。まるで灼熱少年だな、と密かに思いつつも折角の誘いだとヒースは頷いたのだった。













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