A requiem to give to you
- 陽炎と灼熱少年(6/7) -


フィリアム自身、グレイの事をよく知っている訳ではない。精々彼の事でわかるのは、異世界から来た面倒臭がりで、ガラが悪くて、時に乱暴で……でも、それでいてとても仲間想いだと言う事だ。彼は仲間を……幼馴染み達を本当に大切に思っている。恐らく、この世界よりもずっとずっと……だ。

だからこそ彼にとって、この世界の未来には興味がないのだ。



「……フィリアム?」



ヴァンがいきなり黙り込んでしまったフィリアムに訝しみながら問い掛けると、彼は途端に悲しげに顔を歪めると拳を握りしめた。



「俺って、一体何なんだろう……」

「? それはどう言う……」

「兄貴には……グレイには仲間達と帰る世界がある。でも俺は? 俺はどこに帰れば良いんだ……?」



その言葉にヴァンは言い掛けてた言葉を飲み込んだ。フィリアムはレジウィーダの……日谷 宙のレプリカだ。被験者こそ異世界の者だが、彼はこの世界で生まれた。だから彼女達の様に"帰る"と言う事はない。最終的に計画が完遂すれば、目の前の男は勿論、六神将も皆"居なくなる"。レプリカだけの世界だから、一人の被験者が残る事は許されないのだから。

ならば計画の同胞達と共に散るかと問われれば、別に死にたいなどとは思わない。






───寧ろ逆だ。自分はもっともっと、この世界を見てみたい。駆け抜けたい。

だけどそれでは、生まれ変わった世界で独りになる。レプリカ大地計画に反対している訳じゃない。でも皆が居なくなるのも、嫌なのかも知れない。

……置いて行かれたく、ない。しかしどの道を取ったとしても、その願いが叶わない事をフィリアムは理解してしまった。



(それは俺が……あの人のレプリカだから……………)



彼女の持つあの日溜まりも、グレイや神託の盾の同胞達との未来をも、自分は手にする事が出来ない。

認めてもらえていると、思っていた。しかしそんな事はなかった。結局自分は……レプリカであり、この世界の半端者に過ぎないのだと、知ってしまった。



「フィリアム」



俯いたまま黙り込むフィリアムをヴァンは呼ぶと、彼の頭に手を置いた。



「あまり考え過ぎるな。焦っていてはいくら考えても答えなど見つからん」

「……………っ」



図星を指され、ビクリと肩を揺らすフィリアムにヴァンは苦笑してその頭をあやすように優しく撫でた。



「それにお前も暑さは苦手なのだろう。顔色も悪いしな。今暫くは休息を取ると良い。それからでも……遅くはないのだからな」



ゆっくり考えて、お前のやりたい事をやれば良い。



「俺の……やりたい事?」

「そうだ。己の正しき道を見つけるのだ」



そう言って頭から手を離したヴァンにフィリアムは暫し考えてから、小さく頷いた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「……………」



クネクネ



「……………」



クネクネ



「……………」



クネクネクネクネ












何だコイツは


ヒースはグミなどの補充の為、一人店を回っていた。買い物が終わった後も、ついでにと武器や防具の店を見ていた時、人気のない所にこの得体の知れない生物がいたのに気が付いた。格好も奇抜だが、先程から絶えず変な動きを繰り返す様は物凄く奇妙な感じで、何だか妙に目に付く。更にはその生物の足元に人一人くらいなら易々と飲み込めそうな蟻地獄が一つ。何故そんな大きな蟻地獄がそこにあるのだろうかと疑問に思ったが、とにかくまずはこのクネクネしている怪しさ満点のコイツが気になって仕方がなかった。


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