A requiem to give to you
- 陽炎と灼熱少年(4/7) -


「さて、それでは早速キムラスカの領事館へ………と、いきたい所ですが」



ジェイドがそう言いながらチラリとレジウィーダとグレイを見る。しかし未だに顔色は悪そうで、レジウィーダに至っては既に半分意識がない。



「ちょ、ちょっとレジウィーダ大丈夫なの!?」

「うー……」



ティアが慌てて声を掛けると返事とも言い難い声が返ってきた。



「とにかく、まずは宿を借りて休ませるのが先決かな」



ヒースがそう言い、全員が頷く。



「じゃあ、領事館はまた改めて行くとして、今日は自由行動って事で良いよな?」

「はーい」

「はいですの!」



元気の良い返事をしたアニスとミュウは直ぐ様ルークとイオンの手を引き露店の方へと消えていった。



「お、おい。お前達だけで行くなって!」

「………もう、」



そんな彼女達に慌ててガイとティアも追いかけていくのだった。それを見送り、ヒースは思わず「行動早っ」とツッコミを入れた。



「何だかんだで楽しみだったのねぇ」



タリスは染々と言っていたが、それにしても皆薄情ではなかろかとも思わなくもないヒースであった。しかしそんな彼の思考を気にする事なく、タリスは残っていたジェイドを向いた。



「それじゃあ、一番暇そうな大佐さん。後はよろしくお願いしますねv」



後は……とは宿の部屋借りとレジウィーダ達の看病の事だろう。ニッコリと言われたそれにジェイドは意外そうに目を丸くした。



「おや、てっきり貴女がやるのだと思っていましたが?」

「私もそう思ったのだけれど、ちょっとそこの船酔いを連れて行きたい所があるのよ。だからその間だけレジウィーダを看ていて欲しいの。それに環境変化での負荷対応は貴方の方が向いているでしょうしね」



そう言い切ったタリスにジェイドはレジウィーダを見て暫し考えた仕草を取ると、やがて肩を竦めて頷いた。



「………わかりました。引き受けましょう」

「ありがとう」



タリスは一言お礼を言うと、グレイを立たせて腕を引き、どこかへ歩いていった。



「彼もあまり調子良くなさそうですが、この炎天下を連れ歩いて大丈夫なんですかね?」

「さぁ……まぁ、いくらタリスでも本気で調子悪い奴をこれ以上ぞんざいに扱ったりはしないと思いますがね」

「貴方も存外酷い言い草ですね〜」



と、言うか貴方達は基本的に口悪いですよね、とは流石のジェイドでも言わなかった。



「ところでヒース。貴方はこれからどうするんですか?」



と、ジェイドはレジウィーダを抱え上げながら問い掛けた。ヒースは露店の立ち並ぶ市場を一瞥してから答えた。



「取り敢えず、必要な物の補充をしながら見て回ります」

「わかりました」



ジェイドが頷き、ヒースは「またあとで」と言って道具袋を持って歩き出すと、市場の人混みへと消えていった。



「はぁ…………」



誰もいなくなって、思わず漏れるのは溜め息。……否、実際にはもう一人いるのだが、己の腕の中にいる少女の意識は既に眠りの世界へと旅立っていた。間違っても気絶ではない……筈だ。

ジェイドはもう一度レジウィーダを見て、先程よりも深い溜め息を吐いた。



「まさかこんな事になるとは……」



苦手なんですよね、この人。その呟きは人の賑わう声に掻き消されていった。


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