A requiem to give to you
- 陽炎と灼熱少年(3/7) -


金色の砂、照り付ける太陽、賑わう人々の声。そして……



「うェ…ぷ……」

「ぁー…………」



死にかけの男女。



「熱中症ですね。あと、大分疲労が溜ってます」



ジェイドは船から降りて間もなくグッタリとしてタリスに寄りかかったレジウィーダの状態を診ながら言った。



「レジウィーダ、大丈夫?」

「だ、大丈夫大丈夫……なんか目の前がちょっと揺れてる様に見える、けど………あ、なんか目が回る」

『………………』



全然大丈夫ではなさそうだった 。それもその筈で、都会生まれ都会暮らしの日本人で、しかも学生である彼女は砂漠地帯など初めて訳で。加えてレジウィーダ自身が元々暑さを苦手としているのだ。そんな状態で陽炎など見ていれば尚の事気分も悪くなるだろう。寧ろこの状況下で倒れない方が不思議である。

因みにもう一人は……船酔いである。こちらも相当来ているらしく、顔を真っ青にさせ口元を押さえながら座り込んでいた。



「バチカル行きの船が出るまで暫く時間がある。その間に休息を取ると良い」



最後に船を降りてきたヴァンがそう言いながら近付いてきた。そんな彼の後ろからは俯きながら卵を抱えたアリエッタもついて来ていた。



「ヴァン師匠! …………、」

「…………」



嬉しそうにヴァンの前に来たルークだったが、ふとアリエッタと目が合うと気まずそうに口を閉ざした。対するアリエッタもルークを睨みはするものの、特に何も言わずに彼から目を逸らした。彼女が向いたその視線の先にいたタリスはそれに気が付くと、ゆっくりとアリエッタの前まで歩いて行った。



「………アリエッタ、あのね」



今度こそ約束を果たそうと……彼女の母の最期の想いを伝えようと口を開いたタリスだったが、その先に続く言葉はアリエッタが卵を彼女の方に差し出した事によって遮られた。



「………………」

「アリエッタ?」

「……もう、良いです。ママの気持ちは……わかったから」

『!?』

「あの時の話、聞いてたのね……」

「……………」




そう呟くように放たれた言葉にタリスを始め、ルーク達も驚きを隠せずに目を見開いたのだった。しかしアリエッタはそんな彼を牽制するかの様に「だけど」と続けると再びキッとタリスを、次いでルーク、そしてアニスを睨みつけた。



「この子と一緒に、イオン様を守って。出来なかったら……今度こそ、あなた達を殺します」



強い意志を秘めたその瞳と言葉に、タリスは卵を受け取るとしっかりと頷いた。



「わかったわ。必ず、導師イオンをお守りするわ……この子と一緒に」



卵を撫でながらそう返す。アリエッタはそれを見届けると小さく頷き返して彼女達から背を向けた。



「では、私達は行くとしよう」

「え、ヴァン師匠は一緒じゃないのかよ!?」



てっきり共にバチカルへ行くのだと思っていたルークが驚き声を上げた。それにヴァンは申し訳なさそうに苦笑した。



「アリエッタをダアトの監査官に引き渡さねばならぬのでな」

「そんなぁ……」

「わがままばかり言うものではない、ルーク。船はキムラスカ側の港から出る。詳しくはキムラスカの領事館で聞くと良い。……ティアも、ルークを頼んだぞ」

「え! ……あ、はい。兄さん」



急に話を振られた為か、いつになく素直にそう答えたティアにヴァンは微笑んで頷いた。



「では、バチカルでな」



そう言うとアリエッタを伴い、その場を後にした。



「あーあ、行っちまった」

「まぁ、そう言うなって。バチカルでまた会えるんだからさ」



少し寂しそうに呟くルークにガイが励ますように背中を叩きながら言った。



「……わーってるよ」



だからやめろっての、と返すとガイは笑いながら手を下ろした。


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