A requiem to give to you- 闇ノ武者ノ棲ム城・後編(10/11) -
シンクはフッと皮肉めいた笑みを浮かべた。
「急いで来たとこ悪いけど、こっちの用事はもう済んだんだよね。だからそこで伸びてるお坊ちゃんは返すさ…………振り回されてゴクロウサマ」
そう言うとじゃあね、と手をひらつかせて奥の方へと走り去っていった。追い掛けるべきかとも思ったが、それよりもルークだと思い立ちタリスは急いで譜業の上に寝かされているルークの側に駆け寄った。
「ルーク!」
「……う、ここは?」
呼び掛ければルークはうっすらと目を開け、意識を取り戻した。それにタリスが安堵すると同時にジェイドとレジウィーダもやってきた。
「ルーク、ディストに何かされましたか?」
「……わからねぇ。クソッ、一体何だってんだよ……畜生!」
ジェイドに問いに憤慨しながらもそう答えるルークにアニスは「全部根暗ッタのせいですよ!」と一緒になって怒った。
「ガイ?」
レジウィーダはシンクが去っていった方向をずっと見ていたガイを首を傾げながら呼んだ。するとガイは途端にハッとして苦笑し、ルークの元へと行った。
その時、突然ここにいる誰でもない低い声が聞こえてきた。
「お前達、ここにいたのか……」
「ヴァン師匠!」
奥から現れたヴァンの登場にルークは跳ね起きると彼の元へと走った。そして彼の前まで来ると、途端に申し訳なさそうに眉を下げた。
「その……ごめん。師匠との約束……破っちまって……」
そう言って素直に謝るルークにヴァンは苦笑を浮かべると首を横に振り、彼の頭を撫でた。
「もう良い。お前達が無事であって良かった」
「師匠……!」
「……………」
優しい師の言葉にパッと顔を明るくするルーク。その様子をレジウィーダが複雑そうな表情で見ていると、アニスの思い出したかのような声が上がった。
「ああっ、それはそうと! 早く根暗ッタを何とかして整備士を助けないと!」
「! そうだったわね。イオン様達だけでは心配だわ」
アニスの言葉にタリス達も頷く。しかしヴァンの一言により、動きを止めた。
「その必要はなさそうだな」
え、と声を揃えた皆がヴァンの見ている方に顔を向けると………
「お前……いくらなんでもそれは可哀想だろ」
「ハッ、いつまでも埒の明かねー言い合いされるよりゃマシだ」
「あ、あのグレイ………もう少し優しく扱って下さい……」
「はぁ……」
ぐるぐる巻きになり頭に大きなタンコブを作って気絶しているアリエッタを担いだグレイ達が階段から降りてきている所だった。
どうしてそうなった
ルーク達の声なき叫びが一つになった瞬間だった。しかしそれにも動じないジェイドはにこやかにグレイに問い掛けた。
「ソレ、どうするおつもりで?」
「どうするもこうするも、引き取って貰うに決まってるだろ」
丁度身元引受人もいるみたいだしな、とヴァンを見ながらアリエッタを渡せば、彼女を受け取った引受人ことヴァンは溜め息を吐いて頷いた。
「良かろう。今回の事は私の監督不届きが招いた事だ。ケセドニアに着き次第、アリエッタをダアトに送還し軍法会議にかける」
「お願いします」
ヴァンの言葉にイオンも頷く。それに漸く緊張が解かれたのか、ルークが背伸びをしながら言った。
「用事が終わったんなら、早いとこ帰ろうぜ。もう疲れちまったよ」
「はは、そうだな。ルークにとってはかなり災難な一日だったよなぁ」
「それに船の修理もしなければならないもの。急ぐに越したことはないわ」
続いたガイとティアに他の者達も同意する。
「入口に辻馬車を用意している。お前達が乗ってきたのも連れ帰らねばならん。日が暮れる前にここを発とう」
ヴァンに促され、ルーク達は元気良く返事をして部屋を出て行く。最後にレジウィーダも出ようとして、ヴァンに呼び止められた。
「言わないのだな」
「………。アンタの考えてる事がわからない。でも、だからと言ってアンタのやる事なす事根っから全否定するってのも変だと思ったんだ」
だから、
「今すぐどうこうって事はしない。アンタが何を考えて、何をするつもりなのかを確かめて……その上で阻止してやる」
勿論、手遅れにはしないよ!と笑いながら言えば、ヴァンは顔を顰めた。
「お前が思っている程、この世界はそんな生温い考えが通用する所ではない」
それだけ言うと、ヴァンはレジウィーダを追い抜かし先に部屋を出て行った。
「通用しないなら、意地でも通しきってやる……!」
誰もいなくなった部屋でレジウィーダは意気込むように拳を握ると、思いっ切り突き上げた。
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