A requiem to give to you
- 闇ノ武者ノ棲ム城・後編(9/11) -



*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「うわ〜ん、ルーク様ぁ〜っ!!」

「ほらほらアニス、嘆いていては捕らわれの王子様は救えませんよ〜」

「ははは、笑えねー」

「三人とも、話してないで早く走って!」



現在、一行はコーラル城の屋上から猛スピードで階段を駆け下りていた。久し振りに全員が揃い、いざアリエッタの元へ……!と、向かい漸く辿り着いた筈だったのだが……それは彼女達の罠であった。アリエッタは魔物を向かわせ、ルークとイオンを捕らえに掛かった。イオンはアニスが身を呈して庇った事により大事には至らなかったがルークは捕まってしまい、そのままディストとの連携で連れ去られてしまった。

一行はアリエッタの説得としてイオンとティア、ヒース、ルーク救出に向かうアニスの代わりにグレイを護衛として残し、後の者達はディストを追い掛ける事となった。そして先陣切って駆けていったガイの後を追いながらのこのやり取りである。



「ガイったら、見境なく走っていってしまったけれど……ルークがどこにいるのかわかるのかしら……?」

「大丈夫だと思いますよ」



不安げに呟くタリスに返したのはジェイドだった。



「あのアホが行くところの検討は着いてますし、それを既にガイにも伝えてあるので……迷ってさえいなければ、ね」

「なら、良いのだけれど……いいえ」



きっと大丈夫、と自分に言い聞かせるとタリスはアニスを伴い走るスピードを上げていった。



「ジェイド」



先に行く二人の背を見送っていると、不意に隣を走るレジウィーダに声を掛けられた。



「……何ですか?」

「"知らない"ってモノほど不安な事はないと思う」

「?」



どう言う事だと言いたげにレジウィーダを見れば、彼女はただひたすら前を見据えながら口を開いた。



「少しでも相手が"知らない"と言う事を理解(し)っているのなら、教えて上げるのも優しさだよ」

「……………」

「『知らない方が幸せ』だなんて、"知らない"のを理解(し)らない人に使うべき言葉だ」



恐らく彼女が言いたいのはルークが浚われる前、今自分達が向かっている場所でのやり取りの事を言っているのだろう…………あの忌まわしき過去の産物のある部屋での。

確かにジェイド自身は彼の持つ疑問の答えを持っている。しかし、まだ確信している訳ではない。否、認めたくないのかも知れない。殆ど黒と言っても良い事実だが、まだ認めるには早いのだ。だから、まだ彼……ルークに自らの持つ答えを言うつもりはなかった。



「貴女は、単純そうに見えてなかなか面白い言い回しをしますね。それではまるで……──―」



そこまで続いた言葉は呑み込んだ。それこそ、隣にいるこの少女に言う必要などない事なのだ。

……そう、例え記憶の片隅にある、忘れる事の出来ない彼の者に似ていようとも、この少女とは何の関係もないのだから……。



「? ジェイド君どしたの?」



何も言わなくなったジェイドを不思議に思ったのか、レジウィーダは漸くいつもの言い方で彼の名を呼びながら見上げてきた。ジェイドは一言「何でもありませんよ」と答えると、足を速めた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







アニスと共に巨大な譜業のある部屋へと辿り着いたタリスの目に飛び込んできたのは、ガイがいつか見た少年に蹴り掛かられている所だった。



「ガイ!」

「!!」

「チッ、命拾いしたね……!」



ガイの名を呼ぶと、タリス達の存在に気付いた少年は舌打ちをして大きく後ろへ飛躍し、二階の手摺りへと降り立った。辺りを見渡してみるも、どうやらディストは逃げた後のようだ。それを確認するとタリスは再び少年を見上げた。

深緑色の髪に鳥のような仮面を着けた少年。一年前に会った時よりも伸びた身長、低くなった声。セントビナーで見かけた後にガイの説明で言っていた彼の二つ名は………六神将・《烈風のシンク》。


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