A requiem to give to you- 闇ノ武者ノ棲ム城・後編(8/11) -
再びグレイは両手一杯にクナイを取り出すと、今度は自分の左右の壁に向けて投げた。それにルーク達は首を傾げていたが、その理由は直ぐに彼らにもわかった。
『…………!?』
武者が次の技を出そうと腕を振り上げたまま、動かなくなった。………否、正確には動けなくなったのだった。
「これは……糸か?」
目を凝らしてよく見てみれば、武者の回りには沢山の糸が張り巡らされていた。どうやら先程のクナイはそれを行う為の物だったらしく、武者は見事にその糸に絡まっていた。その時丁度、後方でスペクタクルズを手に武者を調べていたジェイドが声を上げた。
「皆さん、その敵には物理攻撃は殆ど効きませんが、譜術攻撃……特に光属性が有効です」
「光属性……よし来た任せとけ!」
指を鳴らして笑ったレジウィーダに頷き、ジェイドは全員に指示を出した。
「術を使える者は詠唱の準備を。ルークとヒースは敵からの遠距離攻撃の注意を我々から逸らせて下さい!」
『了解!』
全員が頷き合い、一斉に駆け出す。
「出でし風塵よ、天地を舞い切り裂け! エアスラスト!!」
先発にレジウィーダが糸を切らぬよう、辺りに向けて風の譜術を走らせる。立ち込めていた第一音素に混じり、僅かな第三音素が発生した。
「シンクロコンディション!」
ヒースは風に溶け込むと、突風を起こした。その隙にルークは武者に近付き、技を放つ。
「アルバート流剣術、存分に味わいな! 牙連崩襲顎!!」
「───行くぞ!!」
ルークの牙連崩襲顎、風に乗って反対側から現れたヒースの虎牙連斬による左右上下からの攻撃で敵の注意が二人に向く。その隙にタリス、グレイ、ジェイド、そしてレジウィーダが詠唱を開始した。
「氷結よ、我が命に応え敵を薙ぎ払え」
「目覚めよ、鋭き岩槍……!」
「煌めきよ、意を示せ」
「白き閃光、我に仇なす者を貫き、裁きを与えよ!」
詠唱が完了したの見計らい、ルークとヒースは急いでその場から離れる。
「フリーズランサー!!」
「グレイブ!!」
タリスとグレイの術が炸裂する。フリーズランサーにより拘束の糸は切られたが、グレイブによって再び武者の動きは制限された。そこにジェイドとレジウィーダの術が放たれた。
「フォトン!」
「レイ!!」
風のFOFにより光属性へと変化したジェイドの術が武者を包み込み、小さな爆発を起こす。それにより武者の両腕は消え、追い打ちのようにレジウィーダの閃光の雨が降り注ぎ、黒い身体を覆った。次に光が収まった時には、広間に満ちていた禍々しい気配と共にその姿はなくなっていた。
「か……勝ったぁー………」
レジウィーダのその一言で他の者達の肩からも力が抜けたかのように安堵の息が漏れた。
「いやぁ、もう本当に疲れたよー」
「元を質せばテメェのせいだけどな」
半眼になって睨みつけてくるグレイにレジウィーダは誤魔化すように笑った。
「でもさ、お陰で浦島太郎にはならなくて済んだんだし……ね?」
「浦島太郎ってなんだよ?」
初めて聞く単語にルークが問うと、レジウィーダは簡潔に説明した。
「海の中にある楽園へ遊びに行って帰ってきたら爺ちゃんになってしまった青年のお話!」
「間違ってはいないけど、はしょり過ぎて何がなんだかわからないと思うよ」
剣を仕舞いながらヒースがツッコミを入れると、他の者達も揃って頷いたのだった。
それから直ぐにもう一台の辻馬車に乗っていたガイ達がやって来て、整備士の救出に向かう為に城内を散策しながら奥へと進む事になった。
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