A requiem to give to you- 闇ノ武者ノ棲ム城・後編(6/11) -
休みなく走り続けた甲斐もあり、既にコーラル城は目と鼻の先だった。
「ルーク、もう直ぐ門だ。スピードを落として!」
あと十数メートルと迫る門にヒースがルークへと声を掛ける。
「落とせったって……どう、したら……!?」
馬車の引き手自体初めてな彼が止め方などわかる筈もなく、猛スピードで門を通り抜ける。それにヒースは焦りながらジェイドを向いた。
「大佐、このままじゃまずい! 止められるなら止めて下さい!」
「仕方ありませんね〜。私も死にたくありませんし、お手伝いしましょう」
と、何となく癇に触る言い方をしながらもルークの隣まで来ると、彼から手綱を受け取ろうとした。その時、ふとタリスが何かに気が付き口を開いた。
「あら、ルーク。その人だあれ?」
そう言って指さすはルークの、ジェイドとは反対側の隣。そこに他三人が目をやるが、当然ながら何もいない。
『……………』
僅かばかりの沈黙の後、再びタリスが言った。
「ねぇ、ルーク」
「……な、なんだよ…?」
「今、貴方の隣の人が言っていたのだけれど
前、ぶつかるって────」
その直後、盛大な破壊音が響き渡った。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
ドカァアアアアアアンッ
本日二度目の爆発音……否、どちらかと言えば何かが大きく崩れるような破壊音がした。それにより今正に振り切られようしていた武者の腕を止めた。衝撃に備え咄嗟に閉じていた目を開き、眼前に広がる光景にグレイは思わず
「………………は?」
と、間抜けな声を上げた。
今、グレイの目の前には武者がいる。それは先程から変わりはないのだが、その武者は床に伏しており、更には何故か辻馬車が馬ごとその黒い巨体の上に乗り掛かっていたのだ。これで驚くなと言う方が無理である。
「いってー………何なんだよ全く……」
グレイが呆然としている中、レジウィーダが斬られた肩を押さえながら起き上がった。流血はあるがそれ程深い傷ではないらしく、直ぐに辺りを見渡すと自身の現状に気付き慌ててグレイから飛び降りた。
「い゙っ!? っ、テメ……いきなり動くな!!」
無理矢理退いた事で思わず彼の腹を踏んでしまったらしい。我には返ったが、お陰で痛む腹を押さえながらグレイは怒鳴った。
「わ、悪かったよ……それより、アレは?」
流石に悪いと思ったらしく素直に謝ると、あの非常にカオスな状態になっている"アレ"を指さした。しかし問われた所でグレイにわかる筈もなく、彼は一言「知らね」と答えると警戒しながらゆっくりと辻馬車に近付いた。
すると中から知った声が聞こえた。
「お、重い……」
「オイオッサン! さっさと出ろよ!」
「はっはっはっ、年を取ると動きが鈍くなって適いません」
「あら、ヒース。貴方の肩に白い手が………」
一番最後に聞こえてきた少女の言葉は最後まで続かず、本日三度目の破壊音と共に辻馬車が盛大に壊れた。
「……………」
驚いて逃げ行く馬が通り抜けるのも気にせず、一連の様子を見守っていたグレイは破壊された馬車から出てきた者達にツッコミを入れるべきかを悩んでいた。そんな彼の悩みも露知らず、隣にいた筈のレジウィーダは文字通り彼らに全身から突っ込んで行った。
「みんなああああああああああっ!!」
と、叫びながら流星の如く突撃と言う名のハグを思わぬ再会となった者達に噛ました。因みにオッサンこと眼鏡軍人ジェイドだけはあっさりと避けていた為、実質その腕に収ま(り切ってはいない)ったのは丁度立ち上がったルークとタリス、それで馬車を破壊したであろう大剣を背中の鞘に収めて落ち着こうと深呼吸をしていたヒースであった。
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