A requiem to give to you
- 闇ノ武者ノ棲ム城・後編(5/11) -


瞬間、武者により繰り出された回転斬りでグレイの方へと弾き飛ばされた。



「ぐっ……」

「っ、……オイ!」



飛ばされた体はそのままグレイに当たり、共に固い地面に叩きつけられた。下敷きになったグレイはその打たれ強さからか直ぐ様に起き上がりレジウィーダを見る。



「……………!」



自分の上でぐったりとする少女から流れる赤を視界に入れたグレイは目を見開いて動きを止めた。

















『約………そ、く………守……れ……なく、て………ごめ、ん……』


















ズキッ



「っ、!?」



不意に脳裏に何かが見えたと同時に左目に激痛が走った。



(今……のは……!?)



痛む目を押さえ、混乱する頭で前にもあったこの現象について思考するが、その為彼は今の現状を完全に見落としてしまった。



『………我が望む力には、至らぬか』



直ぐ目の前には武者が静かに立ち、巨大な湾曲刀を持つ腕を振り上げていた。自分達に掛かった陰りにハッとしたグレイが首を上げた時には、既にその腕は振り下ろされていた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「ルーク! もっと急いで!!」

「だあああっ! もう、わかってるっつーの!!」



彼女にしては酷く急かすような言葉に、馬車の手綱を持つルークは焦りと苛立ちが綯い交ぜになりながら叫んだ。

今現在、コーラル城への道のりを駆け抜けるのはルーク達一行の乗る二台の辻馬車。先頭を走る馬車にはルークを始めタリス、ヒース、ジェイドが乗り込み、二台目にガイを引き手に、アニス、イオン、ティアが乗っていた。



「つーか明らかに可笑しくね!? 何で俺が馬車の引き手なんだよオイイイッ!!」



四苦八苦と手綱の操作をしながらルークは明らかに彼よりも馬車の扱いに慣れている筈のジェイドを怒鳴る。



「いやいやぁ、老体には馬の扱いは辛くて辛くて……」



そう言って態とらしい咳をして誤魔化すジェイドにルークは歯軋りをしながら「この腐れ軍人がっ」と小さく悪態を吐いた。

そんなルークを見てヒースが口を開いた。



「もし辛いなら代わろうか?」



そこには本気で心配する色が見え、ルークは言葉に詰まりながらもそっぽを向いた。



「い、良い! 別に俺一人で出来るっつーの!」

「……無理だけはするなよ」



マジで、と言う言葉は呑み込み、ヒースは無事に目的地に着ける事を祈った。

そもそも何故彼らは今この様な状態になっているのか。それは十数時間程前にカイツール軍港での事が切っ掛けである。

アリエッタによって浚われた船の整備士とグレイの救出の為、一度カイツールで準備をすると言って軍港を後にしたヴァンを見送って直ぐの事。整備士と同僚だと言う者達からイオンへの救出願いが出された。彼らが言うには、件の整備士は今年は災厄は回避されると詠まれていたらしく、それを聞いたイオンは元々の優しい性格も相成って二つ返事で了承した。

けれど、ルークはヴァンとの約束もあり一度はイオンを引き留めた。しかし彼の意志は固く、また彼と同じ神託の盾であるティアとアニス、コーラル城が気になると言うガイ、既に行く気満々なヒースの切なる説得、決め手となったタリスの無言の懇願によりルークも遂に折れたのだった。

因みに余談だが、ジェイドは口ではどうでも良さそうな事を言ってはいたが、行かなければ行かなければで既に軍の編成準備が出来るようにしていたのだとか……(ルーク達には内緒)










そして辻馬車を借り、現在に至るのである。


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