A requiem to give to you
- 闇ノ武者ノ棲ム城・後編(4/11) -


そのまま容赦なく引き金を引けば、放たれた音素弾はあっさりと避けられる。



「ちょっとー、いきなり撃つとか酷いじゃんか」

「煩ェ! いっつも大事な事に限って何でもない風に言いやがって……少しは危機感とか持てねーのかテメェは!?」

「だって慌てた所でどうにかなるモノでもないし、そもそもあたしだってこの事実に気付いたのってアンタが来てからだからつい今さっきなんだ。だから今一現実味がわかないと言うか……ねぇ?」



そう言って肩を竦めるレジウィーダ。そんな彼女にグレイは怒りを通り越して溜め息が出そうになるのを抑えて拳を握った。



「あのなァ、その現実味のない状態に現在進行形で……───」



立たされているンだよ、と続く筈だった言葉は息と一緒に呑み込まれた。いきなりピタリと止まってしまったグレイに首を傾げながら見上げると、彼は今まで話していたレジウィーダよりも更に後ろを見ていた事に気が付いた。



(…………あたしの、後ろ?)



レジウィーダの後ろと言えば、あの禍々しい剣が刺さっている筈だ。そう、あの如何にも何かありそうな………魔剣が。そう思いながらもゆっくりと後ろを振り返れば、それは宙に浮いていた。



『我は妄執……叶わぬ願いに捕らわれ、彷徨う御魂、錆び付いた剣。汝らは我が望む、我を断ち切る剣たり得る者か?』

「えーと、……オーイエスッ!」



取り敢えずそう答えたらグレイに思いっ切り殴られた。



「明らかにノーだろ馬鹿たれ!!」



と、訂正するが既に遅し。宙に浮かぶ剣はクルリと回り刃を天に向けるとその姿を変えた。



「うわぁ」

「マジかよ……」



黒い甲の様な頭に、鎧のような体。長い二本の腕には巨大な刀と湾曲刀。妖しげに光る、赤い目。それは正に、日本の武者を思わせるような容姿をしていた。ただ一つ気になるのは、武者の右腕辺りに少し焦げたような傷がある事だろうか。



「きっとアレだよ。アンタが無闇やたらに銃ぶっ放すから怒ったんだ。これは土下座して切腹だね」

「それはテメェがオレを怒らすからだろうが! やるンならテメェでやれ」

「えーっ、嫌だよ。痛そうだし、あたし肌弱いし」

「肌は関係ねーだろうが。それに痛ェの嫌なのはオレだって同じだ!」



そんな事を言い合っている間にも武者は既に動き出していた。片腕を振り上げ、もう片方で振り被りそのまま十字の形に斬り込んできた。それにいち早く気付いたグレイが舌打ちと共にレジウィーダの襟元を掴み後ろに大きく跳んで攻撃を避けた。それにより大事には至らなかったが、突然引っ張られたレジウィーダは思いっ切り後ろに転ぶ羽目になった。



「いって……! いきなり酷い!」

「ぼさっとしてるからだ! 次来るぜ!」



グレイが譜業銃を構えながら言う頃には武者は再び構えを取り、地面に叩きつけ黒い衝撃波を放ってきていた。レジウィーダとグレイは左右に跳んでそれを避け、反撃に移る。



「いっくぜーー!!」



レジウィーダは一度大きく屈むと、第五音素を集めて纏った。そして狙いを定めると勢い良く地を蹴り、武者に向かって火炎弾の様な一撃を繰り出した。



「空破、爆炎弾!!」



武者に当たると小規模な爆発が起こった………が、



「効かねェみたいだな」



傷一つ付く事はなく、武者は平然として佇んでいた。



「こっちから攻撃が出来ないのか!?」

「まさか。オレの音素弾は効いてたぜ」

「でもそれって、……まだ剣の、時だろ?」



と、レジウィーダが連続的に切り込まれてくる攻撃を流しながら叫ぶ。



「もしかしたら、また剣に戻せば……──っ!?」



続く筈だった言葉を切り、一瞬の内に目の前に現れた黒い悪魔にレジウィーダは思わず息を呑んだ。


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