A requiem to give to you
- 闇ノ武者ノ棲ム城・後編(3/11) -



「よく言うよ。言う程顔に拘ってる訳でもない癖に………でもま、」



そこまで言って一旦言葉を切ると、レジウィーダは再度背を向けた。



「アンタにはアンタの考え方があるように、あたしにはあたしの考え方があるんだよ」

「……っは、馬鹿女が言うじゃねーか」

「あたしも少しは大人になったんですー」



だなんてドヤ顔ど言われ、グレイは「調子に乗るんじゃねェ」とその紅い頭に軽く手刀を落とした。

しかし、



(オレにはオレの考え方があるように、こいつにはこいつの考え方がある……ね)



それはその通りだ。しかしだからと言って、その考えを認めた訳じゃない。レジウィーダの考え方と自分の考え方は全くの正反対だと言っても良い。このまま行けば近い将来面倒な事になるのは目に見えている。



(そうなる前に諦めさせるか、一層の事記憶を消すか……だな)



そんな事を思っていたグレイは、この時自分に背を向けていたレジウィーダがどんな表情をしていたのかを気にする事はなかった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「………時にですね、チミにちょいとお願いがあるんですのよ」



暫くしてから呼び掛けられた口調にグレイは思わず鳥肌が立った。



「気色悪い喋り方すンな………で、何だよ?」



取り敢えず用件を訊いてみると、レジウィーダは己の後ろにを指さした。それを伺い見てみれば、そこには地面に深々と刺さった一振りの剣があった。そこでグレイは漸くこの屋敷(と言うよりもこの部屋)に満ちている禍々しい気に気が付いた。



「何か妙に息苦しい感じがすっと思ったら、アレのせいだったのか」



魔物が寄り付かなくなる程の第一音素。グレイはレジウィーダやヒース、ジェイド程エネルギーの流れに敏感ではない。その自分でも何かしらの異変を感じる事が出来ると言う事は……少なくとも良い物ではないだろう。

グレイは顔を顰めながらそう思っていると、レジウィーダはうんうんと頷いて両手を叩いた。



「いやーチミね、なかなか良いところに来なすったのだよ。丁度良いからアレ何とかするの手伝ってってや」

「ヤなこった」



即答だった……が、しかし当然の答えだろう。折角大人しく刺さって(?)いるのだ。態々自分達から危ない目に遭いに行く必要はない。そう言ってレジウィーダから顔を背けると、「えー」なんて不満げな声が上がったが知らない振りだ。



「でもさ、コレ放っといた所であたしら城から出らんないだろうし。これだけ空間が歪んでるんだ。次に出た時は浦島太郎状態ってのも有り得るんじゃね?」



その言葉には思わずレジウィーダを振り返った。すると彼女は更にとんでもない事をサラリと口にしたのだった。



「つーか、既にアンタがここに来た時点で外とどれだけ時差が出てるのかもわからんし」

「いや待て。そもそも何でそんな事がわかンだよ」



いくら何でも、と問えばレジウィーダはキョトンとした。



「え、わかるよ。だってアンタの話聞く限りじゃ、あたしが皆の所からいなくなって数日だろ?」

「ああ……」

「あたしにとってアンタに会うのって、昨日振りなんだよね」












………………。














「そう言う事は最初に言えエエエエエエエエエッ!!」



今更気付いた無視出来ない事実にグレイは恥ずかしさと情けなさと怒りで目の前の少女に怒鳴る。しかしやはりレジウィーダはあっけらかんとしていて、呑気に笑って言った。



「まぁ、アレだよね。細かい事は気にしないって事で♪」



あはは、とこの薄暗く邪気に溢れた古城に似付かわしくないその能天気な笑顔に、グレイは脳内の何が切れる音を聞きながら譜業銃を向けた。


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