A requiem to give to you
- 国境の砦(11/11) -


グレイは自分の"力"の事はヒース達には言ってはいない。けれど彼らならば自分が何かしらの能力を持っているのに気付いている筈だ。どのような力を持っているのかを問うのならともかく、今更そんな事を聞く意味はない。それに変な人、と言うのもグレイからしてみれば誰も彼もが変な奴らばかりだった。この旅の面子だって、変わり種ばかりが集まったパーティのような物だとすら思える。寧ろなんでこの面子なのだろうかと疑問を投げ掛けたいくらいだ。



(まぁ、見ていて飽きはしねーけど)



それにそんな者達について行こうとする自分もやっぱり変わり者だろう。しかしそれはあくまでも自分が思っている事であって、恐らくヒースの望む答えには繋がらないのだろう。

だから、



「別に、特にはねーな………………………あ」



結論を出した直後、一つだけ思い当たる節がある事に気が付いた。それに思わず声を上げればヒースが「何かあったか」と再び問い掛けてきた。



「あの馬鹿女だ」

「レジウィーダ?」



それにああ、と頷く。



「前にアイツがダアトを旅立つ時に一悶着あったンだよ。その時にアイツが言ってたンだ。『あたしはアンタが思うほど弱くはないよ。それに……












綺麗でもないんだ』ってな」

「あの子がそんな事を?」

「確かにそう言っていた。あの時のあの様子だと、それに嘘はねーンだろうな」



些か驚いた様子を見せるヒースにそう返すと、彼は再び考え込むように腕を組んだ。

綺麗ではない。その言葉が何を意味するのかなど、この世界で武器を手に戦っている者からすれば想像するのは容易だ。ただ、それだけならばグレイは既にいくつもの命に手を掛けてきているし、タリスや……ヒースだってそうだ。だが彼女の場合、その言葉を口にした時期が問題なのだ。レジウィーダは旅立つ直前までダアトに缶詰め状態だった筈だ。以前この世界に来た事があるらしいと言っても当の本人は覚えていない。ならばやはりあの台詞が出てくるのはおかしい。

ならばあの娘は一体いつ、その手を血で染めるような事をしたと言うのだろうか。



(それに……あの時"見た"アレだって……)



レジウィーダの言葉と重なるようにして"見えたモノ"。今は何度思い返そうとしても何故か全く思い出せないが、確かに"アレ"は自分に向けて何かを言っていた。あれが誰かの夢【記憶=過去】である事はまず間違いない。けれど自分には覚えのない光景、言葉だったのだ。

そもそも"アレ"は一体誰だったのだろうか。件の少女なのか、はたまた………もっと別の誰かなのか。それすらもわからない。



「まぁ、結局のところオレがこの世界に来てから気付いた事っつえば、あの馬鹿女について実は何も知らなかったって所だな」

「そうか………他には何かあるか?」



納得はしてもらえたものの、思った以上にあっさりと流されてしまった。それに少し拍子抜けしたが、どの道この事については本人がこの場にいない今は解決する術もない。取り敢えずは保留と言う事なのだろうか。

そして他には……か。



「別に何もねーよ」

「……そうか。なあ」

「今度はどうしたよ?」



と、再度問うとヒースは一瞬黙り込み、次いで首を振って苦笑した。



「いや、やっぱり何でもない。ただ……そうだな。もし、何かあったら遠慮なく相談とかしろよなって話」

「?」



よく意味がわからず首を傾げていると、彼は途端に真面目な顔付きになった。



「つまり、何かあっても一人で突っ走るなよって言ってるんだ」

「…………おう」



既に全力で独走してますだなんて言えず、取り敢えずは頷いておく。しかしヒースはそれに満足したらしく、さっさとベッドへと横たわり布団を被ってしまった。それから直ぐに聞こえてきた寝息にグレイは「オイオイ」と脱力したのだった。



「オメェだって疲れまくってンじゃねーかよ。……まぁ、良いけど」



そう言って肩を竦めるとグレイも同じ様に自分のベッドへと潜った。



(……にしても、)



どうやらやる事がまた一つ増えてしまったようだ。一度気になってしまった物はなかなか忘れる事が出来ない。そしてそれを探りたくなるのは人の性だ。それはグレイとて同じで、況してや自分にも関わってくるのかも知れないとなれば、尚更このまま放置しておく気にはなれなかった。



(明日……あの馬鹿女の夢ン中でも調べてみるか)



あんまり気は進まねーけど。

グレイは気怠そうに溜め息を吐くと、両目に着けていたコンタクトレンズを外して目を閉じた。













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