A requiem to give to you
- 歌詞のない唄(1/7) -


一人で閉じ籠らないで。言いたい事は全て吐き出しても良いんだ。我が儘だって言っても良い。だけど、本当に言いたい事は隠さないで。

人を、世界を見て。君が見ている場所の外は、こんなにも綺麗なんだよ。愛せとは言わない。でも、ずっと憎み続けるのは疲れるだけだ。たまにはお休みしたって良いじゃない。

だから………外へ出よう!






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







星空が綺麗な夜。辺りはとうに寝静まり、教会内は勿論街にも人の姿は見えない。そんな中、教会の外壁を登る者が一人………



「うぉっ!? 落ち…………セーフ」



ホゥ、と安心したように息を吐いたのはレジウィーダだった。そう、彼女は今教会の最上階にある導師の部屋を目指し、壁伝いに登っている真っ最中だった。



「あーもう、疲れるー」



そもそも何故外から行く事になってしまったのかと言うと、導師の部屋へは特別な合言葉を必要とする譜陣を使わなければならなかったからだ。その合言葉は導師以外には詠師職以上の者と導師守護役他、極少数の兵士にしか伝えられてはいない為、一介の教団兵(仮)のレジウィーダが知る筈もない。

それからあれこれ考える内にやがて「中が駄目なら外から」と言う決断に辿り着き現在に至るのだった。



「あと、ちょっと……わっ」



もう少しで窓の縁に手が届くと言う所で突如強い風が吹いた。



「え………ウソ、マジかあああああああああ!?」



そのまま手を滑らしたレジウィーダは真っ逆さまに落ちていった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「全く、騒々しい……」



一体全体今何時だと思っているのだ。しかも声からしてまたあの女だろう、とイオンは眉間を押さえた。

あの時以来、イオンは部屋に籠っていた。アリエッタや他の導師守護役達ですら寄せ付けず、預言を詠む時だけ少し出るだけで、あとは一人でずっと色々な事を考えていた。

預言の事、病の事、己のレプリカ達の事、そして………数少ない友や、生まれて直ぐに引き離された顔も知らない家族、アリエッタの事など沢山考えた。



「っ、本当に……どうしたんだろうね……」



こんな事を考えるなど。どうでも良い事なのに……考えた所で今更、どうすると言うのだ。確実に病は死へと導いている。最近では血を吐く回数も増え、食事すらまともに喉を通らない。預言には正確な日にちは出てはいなかったが、もうそんなに時間はないのだろう事は火を見るよりも明らかだった。

己の死の預言を知ったあの日。全てを諦め、理不尽なこの世界に復讐すると誓ったのだ。その為には他の奴等なんてどうでも良い。どうせ皆死ぬのだから、せめて絶望に苛まれてもがき苦しみ、恐怖を味わいながら死んでいけば良い。

なのに……



(どうして……)



どうしてこんなにも胸が苦しいのだろう。

いつもの発作とは違う、もどかしさと切なさと……寂しさが支配するこの感情は一体なんだ……?



「僕は………」

「イオン!」



名を呼ばれると同時に突然窓が開き、強い風が吹く。しかしそれは切り裂く様な鋭さはなく、彼を優しく包むような……春のような暖かさを持った風だった。

思わず窓の方を見ると、月明かりに照らされた暗い紅色。風にその髪を靡かせたレジウィーダがいた。彼女はイオンと目が合うと優しくその目を細めて笑った。



「迎えに来たよ、イオン」


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