A requiem to give to you
- たゆたう心(1/7) -


潮の香漂うダアト港。朝一番の船が到着し、中からは沢山の人々が降りていく。その人々に混じりどこか青い顔で船外へと出たグレイは寒さに身を震わせた。



「うぅ、気持ちワリィ……ってか、寒ッ」

「冬だからな」



後から船を降りてきたアッシュが淡々と呟いた。更にその後ろにいたシンクは眠そうに欠伸をしながら二人に言った。



「今年一番の大寒波だってさ。初春辺りに来たやつより酷いらしいね」

「初春……」



その言葉にアッシュは年明け直ぐに起きた悲劇(?)を思い出し、思わずグレイを見やった。それにグレイは不思議そうに首を傾げるも「何でもない」と顔を逸らされてしまった。



「何なんだよ、一体」

「何でもないと言ってるだろう」

「何でもないって顔じゃねーから訊いてンだよ」

「だから何もねぇっつってんだからそう言う事にしておけよ! 少しは空気読みやがれ屑がっ!!」



カチン



「あ゙あ゙!? 誰が屑だ誰が! つか、何逆ギレしてるンだよ。大体、先に意味深な行動を取ったのはそっちだろうが!」

「黙れ! そんなのてめぇの被害妄想だ!!」

「まるでオレが可笑しいみたいな言い方すンじゃねー!!」

「普段から可笑しいだろうが!!」

「ンだとこの野郎……!!」



突然始まった言い争いを続けていたグレイが遂にアッシュに殴り掛かろうとした時、シンクが止めに入った。



「ちょっと、こんな所で騒がないでくれない? さっきから大注目なんだけど」



シンクの言葉にピタリと口を閉ざした二人が周りを見渡すと、いつの間にか人だかりが出来ていた。



「あ? テメェら何見てンだコラ」

「俺達は見せ物じゃねぇんだよ」












「「潰されたくなければ消え失せろ」」



ドスの利いた声で二人が言えば脱兎の如く野次馬達は逃げ出した。その様子にシンクが突っ込んだ。


「いや、おかしいよね。何でアンタらが一般人にメンチ切ってるわけ? 普通、自分の行動に恥じて自重する所だよ今の。バカだよね、本物のバカだよアンタら。もし一般人に何かあったらどれだけ面倒な事になるかわかってる? いや、バカだからわかってないよね」

「「………………」」

「ホント、アンタらといると頭が痛くなるよ。只でさえ疲れてるってのにボクに余計な体力使わせないでよね。バカ共が」



フンッ、と言いたい事だけ言ってシンクは港の出口の方へと歩き出した。一方、ボロクソに言われたグレイとアッシュは互いに顔を見合わせると、些か落ち込んだ様子でその後を追い掛けた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







レジウィーダはただ無言で目の前の男を見ていた。



「…………………」

「んー……やっぱチーグル製菓のケーキが一番良いな」



そう言いながらケーキ1ホールをフォークで突つくのはトゥナロだった。その周りにはまた別のメーカーのケーキの空箱やらお菓子の袋が大量にある。見た目に似合わず甘い物が好きなのかと思ったのだが、今はいないクリフ曰く「只の味覚崩壊した大食らい」らしい。酷い時は一日7、8食の食事を摂ったり、ケーキにマヨネーズをかけたり、オムライスにチョコレートを乗せたりもするとの事。……思わず想像しかけたが咄嗟に頭を振ってその思考を掻き消した。

図書館での出会いから早数日が経ったが、レジウィーダは未だに彼らの話が信じられなかった。突拍子がない事は勿論だが、何よりも目の前の男がかのローレライの使者だと言う事が何よりも怪しい所なのだ。


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