A requiem to give to you
- 交わらない旋律(1/4) -



暗い暗い闇の中。前も後ろも横すら見えない空間。何があるのか確かめたくとも両の手は何かによって戒められ、歩きたくともいつも以上に身体が重くて身動きが取れない。どうやら何かが自分の上に乗っているらしい。それはどうにも生き物のようで、微かに心臓の鼓動が伝わってくる。

唯一動く口を動かしてそれに問い掛けてみても反応はない。ピクリとも動かない。一応、生きているみたいだが、意識がないらしい。

取り敢えずこの現状を一言で表すのなら………





















捕まった、らしい。



「何てこった……」



ヒースはそれは思い溜め息を吐いた。最後に残る記憶は確かファブレ邸の庭で何者かに襲撃されたルークを庇った所までだ。そして次に気が付いてみればこの状態だった。しかもご丁寧に手は縛られ、目も見えないように布のような物で遮られている。足は取り敢えず自由なのだが、誰かが乗っている為に結局動けない。別に蹴り退かしても良いのだが、万が一女だったり体の弱い人だったらいけないのでそれも思い留まる。



(どうしたものかな……ん?)



どうにかして脱出する方法を考えた矢先、微かに人の声がする事に気が付いた。何かと身体を捩りながら少しずつその声の方へと向かうと壁に当たった。声はその壁を隔てた先から聞こえてくるようだった。



「……ったく、ファブレの坊ちゃんじゃなくてとんだ外れモンを捕まえてきやがって!」

「まぁアニキ落ち着いてくれッスよ。確かにファブレの坊ちゃん程の価値はねぇけど、あのくらい小奇麗な顔したガキならわりと良い値で売れそうな気もしやすぜ」

「そうだぜアニキ。それにあっこに居たって事はそれなりに高い身分のモンですぜきっと!」

「てぇ事は下手したら他から連れてきたその辺の田舎貴族のガキよりはいけるんでねぇかい?」



その言葉にアニキと呼ばれた男は「成る程な……」と考えるように呟いた。



(身売りの一団、か……)



そう言えば最近、世界各地で金持ちや貴族の子供が誘拐される事件が相次いでいると言う話を聞いた事がある。攫った子供は身代金を要求する道具に使われたり、どこかに売られたりと様々らしい。恐らくこの者達はバチカルでも王家の次に地位の高いファブレ公爵邸の財産を狙って来ていたのだろう。況してや王位継承権を持つルークを拐かしたとなれば相当な身代金が取れる。まさに格好の獲物だったと言える。

ヒースはそれに思わず安堵の息を漏らす。男達の話からすれば、あの時自分が彼の前に立った事でルークは捕まらずに済んだようだ。



(だからと言って、このままでいる訳にもいかないな……)



いつまでもここに居ればいずれどこかに売り飛ばされてしまう。そうなった者の末路と言うのは大抵決まっている。



(……そんなのはごめん被るぜ)



早く何とかしなければ、と考えるも不安は積もるばかりだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「? ……何やら騒がしいな」



ファブレ邸の前に到着し、開口一番にそう呟いたヴァンにグレイも門の外から中を覗く。よくは見えなかったが、確かに何人もの兵士やメイド達が忙しなく行ったり来たりと動いているようだった。

ヴァンはグレイを振り向くと言った。



「私は先に入って様子を見てくる。少し待っていろ」

「ヘイヘイ」



いってらーと適当に手を振って見送るグレイを背にヴァンは邸の中へと入っていった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇



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