A requiem to give to you
- 歌詞のない唄(3/7) -



暫くしてどこか丘の様な場所に降り立った。レジウィーダはイオンを静かに下ろすとうーん、と背を伸ばした。



「はー、やっぱ風に乗るのって難しいね!」



でも上手くいって良かったよ、と言う彼女にイオンは呆れた。



「さっき制御出来る様になったと言っていたではありませんか」



半眼になってそう言うと、レジウィーダは顔を掻きながら苦笑した。



「あー……確かに術を発動させる事と治める事までは出来るんだけど、威力とか方向とかみたいな細かい制御はまだ一人じゃ無理みたいなんだよね」



それに、



「君も譜術士【フォニマー】ならわかったと思うけど、この術を使うのに必要なエネルギーは普通ヒトが使役出来る代物じゃない」

「では何故……?」



そこまでわかっていながら、何故彼女はこんな事をしようと思ったのだろうか。下手をすれば死ぬかも知れないと言うのに……。本当にこの女の考えは理解が出来ない。そう思いながらも問い掛けると、レジウィーダはずっと握っていたらしい左手を開いて見せた。



「実はコレのお陰なんだ」

「石?」



彼女が持っていたのはビー玉より一回りくらい大きな綺麗な石だった。それは彼女の髪よりもずっと明るい緋色で、その中には見た事もない陣が浮かんでいる。



「これは"生命の石"とか"守り石"とか言われてるんだけど…………まぁ、簡単に言っちゃえば響律府【キャパシティ・コア】の超強力版みたいな物かな」



つまりは人間の身体能力を上げる物、と言う事らしい。



「前にこことは別の世界に行った時に友達になった子から貰ったんだ。……その時は丁度、今のイオンと同じくらいの年だったかなー」

「別の、世界……」



ポツリと呟いた言葉にレジウィーダはうん、と頷く。



「魔術に関しても、その世界に行った時に現地の人に教えてもらったモノなんだよ。でもまぁ、その人には『制御は無理だと思うから下手に使わないで』みたいな事を言われてたんだけどね!」



やっぱり馬鹿だろコイツ。

そんな事を思っていると、レジウィーダが少し寂しそうに笑ったのに気が付いた。



「それでもね、君を連れ出したかったんだよ」

「え……?」



それはどう言う事だ、と言う前に彼女はそれを遮って言葉を紡いだ。



「君が預言に死を詠まれているのは知ってる。そして、その期日が近い事も」

「………っ」



ドクンと心臓が大きく跳ねた様な気がした。



「だから君は預言を憎んだんだ」



ドクン



「預言だけじゃない。こんな仕組みの世界や、預言に翻弄される人々が憎くて堪らない」



ドクン



「………うるさ、い」



ドクン



「だからその見返しとして、預言のないレプリカを作って復讐するつもりだった」



ドクン ドクン



「けれど、心のどこかで迷っている」



ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン



「……うるさい、っ」



煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い………!!




「それは大切なモノを失いたくないから?」

「……煩いっ!」

「だからアリエッタに自分の事情を知られるのを恐れて…―――」










「煩いって言ってるだろ!!」



これ以上聞きたくなくて、咄嗟に大声を張り上げた。



「大体何なんだよお前は! 余所から来た奴の癖に………預言のない世界から来た奴の癖に!!」

「………………」

「お前に……そんなお前に僕の何がわかるんだよ!! 両親と会う事も友達を作る事も許されず、ただ導師になる為に今まで必死に勉強だって訓練だってして来たんだ!」



それなのに……



「やっとの思いで導師になれたかと思えば、その数年後に死ぬなんて詠まれて………そんな僕の気持ちが、お前なんかにわかるものか……」



一体自分は何故、彼女にこんな事を言っているのだろうか。やめろ、と自らに心の中で言い聞かせるが、一度切れた人間と言うのはどうにも気持ちのコントロールが出来ないものらしい。

これではレジウィーダの事を馬鹿に出来ないじゃないか……。


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