A requiem to give to you
- 歌詞のない唄(2/7) -



それにイオンは酷く驚いた。



「何故……」



先程確かに落ちていった筈なのに、彼女自身には外傷は全く見受けられない。それにこの風は明らかに自然の物ではなく、間違いなく目の前の女がやった事なのだろう。

しかし……



「これはどう言う……いえ、その前に貴女はこの術の制御が出来るのですか?」



報告ではある程度の譜術や魔術は扱えるらしいが、"自然を操る術"は暴発させたと聞いていた。そもそもその所為で彼女はこの間まで謹慎処分を受けていたのだから。

一方、そんなイオンの言葉にレジウィーダはニッと得意気に笑う。



「まあね、謹慎中だからってダラダラしてた訳じゃないのさ!」



イエイ、とピースを送る様子はやはりいつも通りの彼女だ。そう思うと何だか苛々してくる。



(こっちの気持ちも知らないで……本当にお気楽だよね)



「……そうですか、それは良かったですね。それでは、散々見せ開かしたのでもう良いでしょう。さっさと部屋に帰りなさい」



素性を知られている相手にやっても意味がないとわかっているが、"優しい平和の象徴"の笑みでレジウィーダを追い返そうと窓に近付く。

その瞬間、腕を捕まれ気付いた時には俵担ぎにされていた。



「な………!?」

「な、はこっちのセリフ。迎えに来たって言っただろー」



ムカつくぐらい間延びした台詞と共にレジウィーダはイオンを担いだまま窓から飛び降りようとして、慌てて止める。



「ま、ちょ、何してるんですか! それに迎えって……」



これでは地獄の使者だ。幾ら何でもこんな迎えは嫌過ぎる。そう思って暴れると、今度は勢い良く扉が開いた。



「イオン様!!」



入って来たのは騒ぎを聞き付けた兵士達だった……が、



「ハイハイ、ごめんなさいっと」



そんな声と共に足元から煙が上がり、兵士達を包み込んだ。それから直ぐに何かが倒れる様な音がする。



「何ボケッとしてやがンだ馬鹿女」



晴れた煙から出てきたのは面倒臭そうに欠伸をするグレイと、倒れ伏した兵士達。



「さっさと行けよ」

「………………」



そんな彼にレジウィーダは何か言いたそうにしていたが、再び体勢を整えるとそのまま迷わず飛び降りた。……いや、それより



「離せよ!!」

「大丈夫だから暴れるなって! それに今離したらホントに死ぬよ」



そう言うとレジウィーダは手を翳した。



「エナジーコントロール、"風"!」



例の術(?)で辺りに立ち込める大量の第三音素を集めると瞬時にマナに変える。最初から色のある力を変えた為か、無属性エネルギーより格段に濃度の濃い力が出来上がった。

しかしそれは人間が扱える範疇をとうに超えているとモノだった。こんなモノを取り込めば、身体が崩壊しかねない。だが、レジウィーダはその力を難なく取り込むと、術を放ったのだった。



「ホワイムウィング!!」



途端、先程と同じ様に強い風が吹き二人を宙に舞い上げた。そしてそのまま流れに乗るように空を移動する。



「しっかり掴まってて」



そんなレジウィーダの声が聞こえ、気が付けば彼女の服を強く握り締めていた。気を抜けばどこまでも落ちていきそうな、そんな気がしたからだ。

ふと下を見ればダアトの教会が小さくなっていた。教会だけじゃない。街も、人も、他の生き物達も皆がみんな、有りがちな例えではあるが、まるでミニチュアの世界を見ているようだった。それだけ今、高い所に自分達はいると言う事なのだろう。


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