A requiem to give to you
- 狂妄を謳う詩(4/4) -




*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







あれから早くも二週間近くが経った。何だかんだで熱くなっていたとは言え、導師に不敬を働いてしまったのは事実だ。流石に何かしてくるかと荷物まで纏めて構えていたのだが、結局何事もなく謹慎処分も解けて今は自由に教会内を歩いている。

左右のエリアを繋ぐ橋の上に差し掛かった時、イオンが奥の大聖堂に入っていくのが見えた。その後を参礼に来た人達がついて行く。レジウィーダは何となくその様子を上から眺めていた。

ここダアトは宗教都市だけに、教会にはいつも多くの巡礼者や参礼客が来る。そして一日に一度、始祖ユリアのお告げとして導師が自ら預言を詠み上げるのだ。
預言はこの世界の人々にとって常に共にある物とも言える。ダアトでは特にその傾向が強い。それと同時にその執着もより強まり、自分達の幸せの為ならば預言通りにする為にと他者をも犠牲にしてしまう。詳しくは聞けなかったが、自分が来る前にイオンがグレイに話していた事からすると、そう言う事なのだろう。

あの後以来、そのグレイとは会ってはいない。あれだけ頻繁に目の前に現れていた癖に、まるで最初からいなかったかの様に忽然と姿を消してしまった。しかし今の自分達はダアトから出る事は出来ない為、多分街中をフラついているのだろう。



「レジウィーダ?」



小さな声で呼ばれ、下に向けていた視線を戻し振り返ればアリエッタがいた。その顔はどことなく元気がないように思える。



「どうしたのこんな所で。イオンの傍にいなくて良いの?」



そう問い掛けるとアリエッタは俯き、小さく首を横に振った。



「もうずっと、お仕事させてもらえないの。部屋に行っても、イオン様は病気だからって入っちゃダメだって……」



だから良いと言われるまで待ってる、とアリエッタは言う。しかしレジウィーダにはイオンが彼女を遠ざけての措置だと言う事に直ぐに気が付いた。己の死期が近く、それを彼女に悟らせない為……だと言っても、それではあまりにもアリエッタが可哀想だ。アリエッタにとってイオンは誰よりも大切な人で、彼女にとっての支えであり、光なのだから。



(あれ? でもそしたら……)



イオンが死んだ後、彼女はどうなる? アッシュはイオンが死ねば暫く導師の座は空位となると言っていた。その穴を埋める為にレプリカを作ったらしいが、結局はイオンとそのレプリカは別の存在だ。最も彼を近くで見てきたアリエッタが気付かない筈がない。………そうなれば、考えられる事は一つしかない。



「……………っ」



辿り着いた結論にレジウィーダは思わず口を押さえてしゃがみ込んだ。アリエッタが心配そうに見てくるが、答えられそうにない。

そんな二人の耳にイオンの声が入る。視線だけをそちらに向けると、普段は閉まっている大聖堂への扉が開け放され、その一番奥の段の上で譜石を手に預言を詠み上げる姿が見えた。



「イオン様……」



アリエッタの悲しそうな声が聞こえる。イオンが預言を詠み終えると、大聖堂に集まっていた者達の感謝の声が上がった。

ありがとうございます、イオン様。
これで今日も平和に過ごせます。
貴方様に始祖ユリアのご加護を。

そんな参礼者達の言葉を聞きながら、イオンは口元を優しく上げて笑みを返していた。しかしその目は冷たく、嫌悪と憎悪の感情を称えている。そんな彼の様子に誰一人として気付く事はなく、皆今日の平和を喜んでいた。



(このままには、しておけない……)



この時、レジウィーダはある小さな決意を胸に抱いた。













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