A requiem to give to you
- 狂妄を謳う詩(3/4) -



「……わかりました」



小さくイオンはそう答えると、部屋に帰るべく歩き出した。それにアリエッタが慌ててついて行こうとしたが……



「一人で戻れますので、アリエッタは休んでいなさい」



と、振り返る事もせず彼女に言った。その背は何者をも拒絶している一匹の狼のようにも思える。そんな彼の様子にアリエッタはとても悲しそうに顔を歪め、持っていた人形を強く抱き締めながら呟くように「……はい」と返した。

イオンはそれ以上何も言う事なくその場を去って行った。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「〜〜〜っ、何っなんだよコンチクショー!」



イオンが見えなくなり、アリエッタも守る主がいなくなった事で自分の部屋に帰ってしまった。しかしいつまでも晴れないこの空気に耐え切れなくなったレジウィーダはついそんな言葉を盛らす。

そもそも彼のあの態度は何なのだ。アリエッタはただイオンを探していただけだと言うのに、あそこまで言う必要はないだろう。そんなにも聞かれてはまずい話だったのだろうか。



「オイ」



思考を遮るようにアッシュが腕を組みながら声を掛けてきた。どうしたのかと返すと、彼は辺りを確認した後少し声を落として訊いた。



「お前ら、ここで導師の預言の話をしていたのか」

「イオンの預言? 違うよ。あたしはただシンクに謝れって言っただけだ」



元々はそれだけの為に来た筈だった。いくら自分のレプリカだからと言って、無闇に傷付けて言い訳がない。それがいつの間にかイオンや更にグレイとの口論(になっていたのか?)に発展していて、そこにアリエッタ達が現れてイオンの様子がおかしくなったのだ。

そう言うとアッシュは頭を押さえて再び溜め息を吐いた。



「導師のレプリカについては本来教団の最大機密事項だ。こんな場所で安易に話して良い内容じゃない」



況してやアリエッタに聞かれたとなれば、それこそ大変な事になる。そう言ったアッシュにレジウィーダは何故だと疑問に思った。寧ろ彼女なら知っていて当然だと思っていたからだ。



「何でだ? アリエッタぐらい身近な奴なら、寧ろ知っていても問題ねーだろうが」



自分の言葉を代弁するように今まで黙っていたグレイがアッシュに問う。しかしアッシュは首を振った。



「それは駄目だ。この計画は元々導師の預言があったからこそ実行された事だからな」

「その導師の預言って……」



先程も言っていたが、その"導師の預言"とは何なのだろうか。グレイも同じ事を思っていたらしく、アッシュの言葉を待っていた。



「導師は……………12になる年に死ぬ、と預言に詠まれている」

「え……」



一瞬、何を言われたのか理解できなかった。気が付けば彼の言葉をそのまま復唱して問い掛けていた。



「元々病気がちだったらしいが最近は特に酷く、よく寝込んだりしていると聞く」

「ちょって待てよ……。12って今……」



嫌な予感ほどよく当たる、と言うのはこの事なのだと、これ程強く思った事はあっただろうか。

イオンは確か今、12歳だった筈だ。つまり、



「恐らく……



















あと一月とあるかないかだろうな」



アッシュのその言葉は無情にも冷えきった通路によく響いた。


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