A requiem to give to you- 緑の少年たち(8/8) -
「どういう意味だ?」
中途半端は自覚していたが、残酷とは一体どういう事なのだろうか。そう問うと彼は「そのままの意味ですよ」と言って笑みを消した。
「ねぇ、グレイ。たかが小さな子供一人の為に何故大詠師の命令が下されてまで、あの子供がここへ来る事を拒んだかわかりますか?」
「……………」
それにグレイは答えなかった。そのまま黙っているとイオンは恐ろしいまでの無表情で言い放った。
「預言ですよ。預言によると今日、あの子の家族が死ぬと読まれているんです」
その声はとても冷たく、二人しかいないこの空間に響いた。その中でグレイは淡々と口を開いた。
「一つ、訊いて良いか?」
「どうぞ」
「それはどう言った経緯で死ぬとかも読まれるのか?」
その問いにイオンは頷いた。
「多くの場合は、ね。ですが稀に全くそう言った事が読まれない事もあります。その場合、預言成就を願う大詠師等は何としても預言通りにしようとします」
その預言の成就の為ならば、例え罪のない者の命であろうとどうでも良いと言う事だ。
「もう一つ言うと、人の死に関わる預言は秘預言【クローズドスコア】と呼ばれ、基本的に詠師職以上の者にしか知る事が許されていません。……人は、死を前に平常を保つ事は出来ません。だから当事者やその家族にもその預言を教える事はない」
「じゃあ、預言に人が沢山死ぬような事が読まれていても野放しにするってか?」
「寧ろその成功を促す手立てをするでしょうね」
あまりの衝撃的な事実にグレイは苦々しそうに顔を顰めた。
「預言とは無縁の世界では知りませんが、これがここの……いえ、この世界の常識なんですよ」
勿論、全てがすべてそのような思想の持ち主と言う訳でもありませんが。そう続けたイオンはどこか自嘲しているようだった。
「ねぇ、グレイ」
名前を呼ばれ、声の主を見る。
「貴方は、預言を……この世界をどう思う?」
それはあまりにも唐突な質問だった。しかし彼は続ける。
「この世界は預言によって動いている。人の生命から行動を左右し、下手をすればその日の晩の献立一つにだって預言に頼る始末だ。そんな操り人形のように躍り狂い、盲信している人々を見て君は……君達はどう思う?」
そう言ってイオンが見た先を振り返ると、そこには拳を握り怒り露にするレジウィーダの姿があった。
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