A requiem to give to you
- 緑の少年たち(7/8) -



「あの中に、何か大切なモノでもあンのか?」

「!!」



それにどうして、と言いたげに見上げる子供に更に言った。



「どうしてもっつーなら、入れてやらないこともねーぞ」

「! ホント!?」

「男に二言はねェ」



フン、とまるで勝ち誇ったかの様に鼻を鳴らすと子供はパッと明るい表情を見せると思いっきり抱き着いた。



「ありがとうっ……ありがとうお兄さん!!」

「わ、わーったから引っ付くな!」



突然の行動にグレイは慌てて子供を引っ剥がした。そのまま辺りを確認すると声を潜めて着いてくるように促す。



「良いか。あくまでもコッソリと、だぞ?」



本当は駄目なんだからな、と念を押すと、子供は表情を引き締めて頷いた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「……と、ここまで来れば後はテメェで何とかなるな?」



教会へは何ともあっさりと入る事が出来た。勿論、堂々と正面から入ったわけではなく"秘密の抜け穴"を使って、だが。この穴は以前グレイが偶々発見したものだが、どうやら兵士逹が訓練をサボる際に作ったものらしかった。まさか、それが導師脱走の良いように使われているなど、彼を含め誰一人として気付く事はなかったが……。

周りに誰もいない事を再度確認し、子供を中に招き入れて問う。



「うん! 後はボクだけでも大丈夫!」

「そうか。じゃ、頑張れよ」

「ありがとう!」



子供は本当に嬉しそうにお礼を言うと教会の奥へと走り去って行った。それを見送り、グレイは途端に大きな溜め息を吐いた。



「……………で、テメェはそんな所で何をやってンだよ、導師サマ?」



米神を押さえながらそう言うと、柱の影から意味深に笑う導師イオンが現れた。



「あれ、わかりました?」

「わかるも何も、気配丸出しだっつーの」



顔を顰めてそう言うとイオンは更にクスクスと笑った。それが勘に触ったグレイは舌打ちをした。



「……何がおかしい?」

「ふふ、おかしすぎますよ。だって……あははっ」

「喧嘩売ってンのか」



遂には声を出し腹を抱えて笑い出したイオンを彼は拳を震わせて睨み付けた。仮にも導師に向ける態度ではないのだが、そこら辺は気にしないらしい当の本人は笑いを治めてから口を開いた。



「まぁ、落ち着いて下さいよ。グレイ・グラネス殿」



宥めるような口調で言われた言葉にグレイは「誰のせいだ!」と一喝した。

イオンとはヴァンに入団の話をした時に既に面識があった。その際にヴァンから聞いた異世界の話が面白かったのか、導師相手に遠慮も礼儀もないこの態度に興味を持ったのか……はたまた彼自身に興味を持ったのかは知らないが、士官学校パスでいきなりの入団と言う無理難題をあっさりと許可してしまった。その時のヴァンを見る限り、実はこう言う展開を狙っていたらしい。だから敢えて自分達が異世界から来たことを話したのだとか。

大丈夫なのだろうか、この教団……とか思ったのは彼だけの秘密である。



「……ンで、結局テメェは何がおかしかった訳だ?」



大きく息を吐き再度問うと、イオンは肩を竦めた。



「別に……ただ、貴方も中々のお人好しだと思っただけですよ」

「悪かったな」



いくら面倒臭がりで子供があまり好きではないグレイでも、兵士にすがり付き尋常なまでに懇願するその姿には流石に無視は出来なかった。教会へ案内すると言った時のあの嬉しそうに涙を浮かべて笑う子供の顔が鮮明に浮かび上がる。

しかしイオンはでも、と馬鹿にしたようにグレイを見て首を振った。



「とても中途半端。そして残酷な事をしましたね」


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