A requiem to give to you
- 緑の少年たち(6/8) -


元々アウトドア派全開なレジウィーダにとって、この仕打ちはまさに拷問とも言える。



「くそー……まさか単体属性の変化であんな術が出るなんて。しかもまた制御不能って……」



予想外過ぎてビックリだ、と腕を組んで考え込んだ。いや、そもそもあの術はなんだ。全く見た事がない。それにこれも後から知った事だったが、あの暴風事故での被害は人や物が吹っ飛んだだけで大した怪我や破損はなかったらしい。恐らくあの術は本来、人を傷付けるものではないのかも知れない。


「でも、ま。いざって時に役立つからいっか」



実際にこれで前にシンクを助けているし、とレジウィーダは自己完結をすると立ち上がって背伸びをした。



「よーし、…………遊びに行こう!」



こんなんいつまでも耐えられん、と意を決すると躊躇なく部屋を飛び出していった















………が、



「げ……」

「あ、」



ドアを開けた先には偶然通りかかったらしい、我らが大将(?)導師イオンがいた。



「あー…………はは、違う、違うからね!? これはだねー……そう! ちょーっと、お腹が空いたから食堂に行こうとしただけで、決して謹慎中だけど遊びに行こうとしたわけじゃーないよ!」



レジウィーダは慌ててそう言い繕うが、かなり無理のある言い訳だった。正直、こんなのがあの鋭い少年が気付かない筈がない。

しかし……



「はぁ……そう、なんですか。お気をつけて」



レジウィーダの勢いに驚きはしたものの、最後に優しく微笑んでそう言うと一緒にいた教団員と共に歩いて行ってしまった。










「あれ……?」



予想外の返答に、一人残されたレジウィーダはポカンと大口を開けたままその場に立ち尽くしたのだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







レジウィーダが呆然と部屋の前で立ち尽くしているその頃、教会の入口では少々揉め事が起こっていた。



「お願い……お願いだよ! 中に入れてよ!」



今にも泣きそうに顔を歪めて兵士に懇願するのはまだ10才前後の小さな子供だった。その必死な様子に通り掛かった巡礼者らは只事ではないことを感じながらも、自分は関係ないとばかりにそそくさとその場を後にする。



「大詠師モースの命により、お前をこの中に入れる事は禁じられている。大人しく帰れ」



しかし子供の必死な願いも、兵士には届かなかった。



「でも……ボク、どうしても中に行かなきゃいけないんだ! じゃないと、あの子が……」



だからお願い!と、子供は兵士の腕にすがり付く。しかし兵士はそれを鬱陶しそうに振り払うと、尻餅をついた子供へと剣を向けた。眼前に突き付けられた刃に子供はビクリと肩を震わせ、息を呑んだ。



「ぁ……」

「大詠師の命令は絶対だ。これ以上留まるなら、痛い目を見るぞ」



兵士の声は本気だった。それに子供も流石に無理とわかったのか、ゆっくりと立ち上がると震える足で引き返していった。



「………………」



その様子を見ていたグレイは、気が付けばその子供を追っていた。









「…っ……ひっく……うっ」



家々が建ち並ぶ町の一角で、子供は丸くなって泣いていた。声を掛けるとビクリと肩を震わせて驚いたように顔を上げた。



「な、なに……?」



殴られるとでも思ったのだろう。子供は直ぐ様自分を守るように身体を固くした。
確かに自分は身長もあるし、少し目付きも悪いと自覚はしている。怖がられるのも無理はないだろう。……少し不服だが。



「……チッ、オイお前。何泣いてやがる」

「……………」



それに子供は困惑した様子が見て取れたが、それもそうだろうとも思った。道行く人々は皆己を見ては気の毒そうな視線を遠くから向けているだけだったと言うのに、況してやこんな誰にも見付からないような所まで態々来てそれを問うてくる意図など、本人にしかわかる筈がなかった。


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