A requiem to give to you
- 成せばなる!(8/10) -



「だからごめんってば。機嫌直してよ」



カイザーディスト2が壊れた原因はこちらにある。そう思って何度も謝っているのだが、相手はかなり手強いようで中々こちらを向こうとせずに背を向けて体育座りをしていた。



(てか、良い大人が体育座りって……)



これではまるで大きな子供だ。いや、子供よりも性質が悪い。どうしよもない気持ちを抑えきれず、つい溜め息が漏れた。



「はぁ、まさか音素が暴走で増えるなんてなー」

「暴走……音素が、増える?」



うっかり吐いた呟きが聞こえたのか、先程までの態度が嘘のようにディストは興味を示して来た。そしてそれにアリエッタが答える。



「レジウィーダが、音素をマナに変えたの。でも直ぐに戻ったと思ったら、音素が増えた……です」

「! アリエッタ、それは本当ですが!?」

「アリエッタ嘘吐かないもん」



アリエッタがそう言うや直ぐ様ディストはカイザーディスト2に取り付けられていたであろう、いつか見た空飛ぶ椅子の辺りから何かの機械を取り出した。



「それは?」

「エネルギーの計測器ですよ。…………成る程、そう言う事ですか……」



もう計測が終わったらしく、ディストは計測器と睨めっこをしながら結果を見ていた。



「レジウィーダ」

「ん?」

「貴女はマナを作れるのですか?」



前に見たアリエッタはともかく、何故ディストはマナを知っているのだろうか。いや、確かに先程アリエッタが口にしていたが、でもそれにしては冷静過ぎるような気がした。



「もしかしてさ、この世界にマナは存在するのか?」



もし、そうだとすれば先程の現象も納得できる。何故ならそれは……



「極僅かですが、ある地域にのみ存在しています。マナは第七音素《セブンスフォニム》を除いた基本六属性の音素の塊でもありますから」



そう言って差し出された計測器を見ると、確かに第一から第六までの音素の数値が高めに出ていた。



「本来マナは作り出す事自体は可能ですが、周りの音素に引かれて直ぐに乖離(かいり)してしまいます。しかし、先程も言ったある地域では元々マナの濃度の方が濃い為か乖離せずに存在し続けています」



まぁ、そのせいで地域周辺の音素と反発し合って天候が乱れたり、魔物が異常な進化や凶暴化したりでとても人間が住めるような環境ではありませんがね。

肩を竦めて首を横に振るディストを傍目に、レジウィーダはもう一度音素を集めてみた。



「……って、貴女は一体何をしてるんですか」

「音素を集めてるんだよ」

「集めてどうするつもりで?」

「術をやってみようかと」

「……やり方は?」

「あたしはフォンスロットがないから、代わりにちょっとした"裏技"を介して陣で結ぼうかなって」

「わかりました。取り敢えず一旦待ちましょうか」



さぁ、いざ!と言う所でディストに止められた。



「それでは暴発してしまいますよ」

「うん、したね。二回ほど」

「わかっているのなら尚更やめなさい。それに術を扱うのにそれでは足りません。」

「足りない?」



音素とマナが殆ど同じモノだと言う事はわかった。フォンスロットはなくともその"様なモノ"ならば譜術と魔術、どちらも対応出来るだろう。だが、結局フォンスロットのようなモノが何かわからないから恐らく無理だろうとわかりつつも、もしかしたら何かが変わるかもと代わりに"例の裏技"を使おうとしていた。

しかしその方法が間違っている訳ではなく足りない……とはどう言う事なのだろうか。ディストの言った意味をグルグルと考えていると、アリエッタが突然声を上げた。



「あ、もしかして」



え、とアリエッタを見ると彼女は珍しく自信に満ちた表情で言った。



「レジウィーダは術を使う時、音素もマナも取り込んでない、です」


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