A requiem to give to you- 成せばなる!(3/10) -
何だかまずい事を聞いてしまった気がしてならなかったレジウィーダは挨拶もそこそこに早足で中庭から離れた。誰にだって触れられたくないモノがある。ムリに抉じ開けるような事はしない方が良い(若干手遅れな気もするが……)
……とは言ったものの、結局譜術の話は中途半端な形で終わってしまったのも事実だった。
「わかった事と言えば『例え主属性であっても、その属性の術や技が使えない場合もある』って事だけか。まぁ、これもかなりの収穫かな」
うんうんと一人自己完結し、次なる目的の為に一先ず修練場に行く事にした。
◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇*
修練場と言うからにはやはり剣や槍と言った武器を扱った物から、譜術のような形のない物を使った訓練やら手合わせやらをしている人が多い。今は新兵の配属試験が近い為か、いつもより多くの人が集まり鍛錬に励んでいた。
レジウィーダがここを訪れた理由は譜術に詳しい人の話を聞く事だった。ここで譜術の練習をしても良いのだが、未だに制御出来ない状態でやれば無駄に威力だけはある術が暴走し大災害を起こす事は目に見えている。だから今回は話を聞き、あわよくば実際に譜術をやっている様子を観察するだけに留めておこうと思っていた。
「こう言うのって、やっぱちょっと偉い人に訊くのが一番だよなー………ん? あれは……」
取り敢えず一番譜術に詳しそうな人を探す為に辺りを見渡していると、一人の少年を発見した。また少年の方も気付いたらしく一瞬どうしようかと迷っていたが、直ぐに意を決したかのように表情を引き締めるとこちらへと歩いてきた。
「はよーす、フィリアム」
「はよ……す」
片手を上げて挨拶をすると、ぎこちないながらも同じように返してくれた。意外とノリが良いのかも知れない。未だに微妙に距離を置かれているのが少しばかり寂しいが。
「何してたの?」
と、訊いたは良いが修練場でやる事と言えば一つしかないだろう。そんな事を思っているとフィリアムは手に持っていた長い柄に片刃のついた物を見せてきた。
「これの、練習をしていたんだ」
「これって…………鉾(ほこ)?」
「薙刀(なぎなた)。鉾は両側が刃になってるやつだから違う」
ヘェー、と声に出して薙刀を見た。ぶっちゃけどちらも似たような物では?と思ったのは内緒だ。
「……アンタは何でここに?」
暫く手に取って刃の部分に触れたりしていると、今度はフィリアムの方から訊いてきた。
「あ、うん。ちょっとね、譜術について詳しい人に教えてもらおうかなーと思って」
そう言うと自分よりも少し薄い、灰みがかった黒の瞳が不思議そうに瞬いた。
「え、今更……?」
「ぅ……いや、確かに配属試験まで一週間切ってるけど、やれる事はやりたいからさ! それに頑張れば今からでも出来るようになるかもー………なんて、」
やっぱり無理かな、と苦笑を漏らしてガクリと肩を落とした。それにフィリアムは慌てて首を振った。
「ち、違う。そうじゃなくて……アンタ、譜術が使えないのか?」
「え? うーん……一応出来る事は出来る。でも全くと言って良いほどコントロールが出来なくってさ」
何故か驚いた顔をするフィリアムにそう説明すると納得したのかしていないのか、微妙な表情で考え込んでしまった。
「…………………」
「どうしたんだ?」
「………………いや。………」
「???」
ますます訳がわからなかった。訊いてみたところで本人が答えてくれないようでは仕方がない。
「まぁ、いいや。取り敢えずあたしは行くから。鍛錬頑張って」
「あ……ちょっと待って!」
それじゃ、と踵を返そうとしたレジウィーダにフィリアムはハッとして思考の海から帰ってくると、そのまま勢いで彼女のその長い髪を掴んで引っ張ってしまった。
「あだいだだいだっ!?」
「あ、わ……悪いっ」
まさかの髪引っ張りに涙目になる彼女を見たフィリアムは混乱のまま慌てて手を離して謝った。
「なんか……あの、ホント……ごめん、なさぃ……」
これもう絶対何本か抜けてるだろ、思いながら付け根の部分を擦っていたレジウィーダは彼のあまりにも必死な様子に怒る気は起きなかった。
「あの……」
「いや、別に大丈夫だよ。ちょっと驚いただけだし、うん」
本当はかなり痛かったが。それを言ったら今の言葉の意味がないので言わなかった。
「それで、どうかしたの?」
シドロモドロとする彼を落ち着かせるように優しく問い掛ける。フィリアムは自分と同じ位の高さにある瞳をキョロキョロとさせながら、おずおずと小さな声で言った。
「俺で……良ければ教えようかと思って……譜術……」
マジすか
突如舞い込んできたチャンスに思わず大声を出してそう言った。当然、周りからは何事かと注目を浴びる事となったのは言うまでもない。
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