A requiem to give to you
- 進展を齎す風(5/6) -


え?とガイはタリスを見る。



「だって使用人が三人ともいないとわかったら、それこそルークどころか公爵様に怒られてしまうもの」

「あー、その点については大丈夫だと思うぜ」



一応旦那様には前もって許可はとってあるし、とガイは言うがタリスは首を振った。



「別にいいわよ。それにルークを一人に出来ないでしょう。だからまた今度機会がある時にでも案内して」



それだけ言うとタリスはじゃあね、と手をひらひらと振って邸の中へと戻っていった。



「……タリス?」

「まぁ、行かないと言うんですから良いんじゃないですか?」



彼女の気まぐれはいつもの事だ、と言いたげに肩をすくませるヒースにガイはこれ以上気にするのを止めた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







外は山からの風が強く吹いていた。しかし冬にしては暖かく、それが直ぐに火山からのものだとわかった。そんな風を受け、レジウィーダはつまらなさそうに長い階段を降りていた。



「あーもう、何でかなぁー」



レジウィーダは先程の自らの言動に激しく後悔していた。



「何、ムキになってんだよ。あたしは」



本当はわかっている。どうして彼……グレイがあんな事を言い出したのか。それにその理由を抜きにしたって、フィリアムが彼に信頼を寄せているのは確かだ。自分なんかよりも、ずっと。だから彼の所にいる方が良いのだろう。

勿論、フィリアムが自分の弟(って言うかレプリカ?)だと言う確証は持ってないし、事実を知ってそうな人物は結局、初めてここに来た時以来会っていないから本当に事実かどうかはわからない。だからグレイがフィリアムを義弟にすると言っても、文句はない筈……なのだが、



「……それでも、それがどこか自分が惨めな感じがして、素直に認める事が出来ないんだよね」



そんな自分は……やっぱり幼稚なのかな?

そう呟きながらレジウィーダはポケットから先程の許可証を取り出した。



「"レジウィーダ・コルフェート"に"グレイ・グラネス"、"フィリアム・グラネス"……かぁ」



一体いつの間に名字まで考えたのだろうか、いやそれよりももうこの世界の字を覚えたのかと言う事に驚きを感じていた。







「………あれ?」



暫く許可証を見ていて、レジウィーダはふとある事に気が付いた。



「って言うか、シンクの許可証がない……」



忘れてる……と言うことは多分ないだろうから、何か他に訳があるのかも知れない。



「また戻ってあいつに訊くってのもなー……うーん。……あ、じゃあ────」



思い付いたように言葉を発したとともに、突如強風が彼女を襲った。



「いてっ」



思わぬ事態にバランスを崩し、尻餅を着いた。打った痛みにお尻を擦っていると、彼女の後ろでダンッと何か大きな物を置いたような音がした。



「ついた………です」



か細いそんな声に後ろを見てみると四つ足の大きな生き物がいた。どうやら突風だと思ったそれはあの生き物が勢い良くレジウィーダの上を通過する時のものだったらしい。そして声を発したと思われるのはその生き物に跨がる子供二人のどちらかだろう。



「イオン様、気を付けて下さい」

「大丈夫ですよ。ありがとう、アリエッタ」



イオンと呼ばれた黒に近い深緑色の髪をした子供は優しい笑みを浮かべてそう言うと、先にあの生き物から降りた桜色髪の少女、アリエッタに手を引かれてゆっくりと地面に足をつけた。


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