「成る程ね。それでそんなに筋力があるのか」
「まぁ……。でもそれなりに成果はあったみたいで、走る以外の事は普通に出来るようになりましたよ」
ガイの納得したような言葉に頷きながらそう言うヒースだったが、一つ腑に落ちないことがあった。
「でも、やっぱり体が重く感じるんです。さっきも貴方が言った通り、まるで重たい何かが全身にのし掛かっているような……そんな感じが拭えない」
それはきっと事故の後遺症とはまた違うモノなのではないだろうか、と最近はそう思っている。そう、例えば………
「何かに憑かれているとか♪」
「「!!?」」
突然背後から聞こえた声に二人は驚きに勢い良く振り返った。
「トレーニング器具を散らかしたまま二人で突っ立て何を話しているのかと思えば……理論立て大会かしら?」
フフフ、と優雅に笑みを浮かべながら二人の後ろに立っていたのはタリスで、驚く二人に機嫌良さそうにそう言った。
「つ、憑かれてるって……縁起の悪い事を言うな」
「そう? だって貴方のそれは事故の後遺症ではないんでしょう? ならそう考えたっておかしくはないわよ」
「確かに……」
タリスの言葉にガイは納得したように頷いた。
「ガイさんも適当に流されないで下さい」
「ははは……すまん。でもなぁ……」
ヒースの怒気を含んだ声に軽く謝罪するが、正直タリスの言う通り後遺症でなければ、非現実的であれどそれも十分に有り得ない話ではない。ヒース自身もそれはわかってはいるのだろう。しかし、彼はそれだけは認めたくない……と言うより嫌がっているようにガイは見えた。もしかしたら彼は、そう言う類いの話は苦手なのかもしれない。
「まぁ、冗談はさて置き」
「「冗談だったのかよ」」
「ふふ、当たり前でしょう。ヒースに何か憑いてるか憑いてないかは既に確認済みですもの」
結局何も憑いていなかったのだけれど、と残念そうに溜め息を吐いて言うタリス。
ヒースにしてみれば冗談じゃない話だ。
それにしても一体全体にいつの間に、そしてどうやって調べたのだろうか。タリスの謎の多すぎる行動にガイの疑問は尽きなかったが、二人にとってはこれが日常茶飯事のことなのだろうか、特に気にする事無く話が進んでいった。
「とにかく、答えが出ないものをいつまでも考えていたって仕方がないじゃない」
「あのな……」
あくまでも軽いタリスにヒースは米神を押さえた。彼女にしてみれば大したことはなくても、自分にとっては日常生活に関わる大切な事なのだ。だからそう簡単に言わないで欲しい、と言葉には出さないものの、ヒースは苛立ちの表情を見せる。
「まぁまぁ、そう怒るなよ。タリスも悪気があって言ってるんじゃないと思うぞ」
………多分。とは口には出さなかった。
「……………」
段々と雲行きの怪しくなる空気にガイは「あ、そうだ」と思い付いたように二人に言った。
「気晴らしに街に出てみないか?」
「……街に?」
思いも寄らないその一言にヒースは周りに立ち込めていた空気を霧散させ、話題に食い付いた。そんな彼に苦笑しつつガイは頷く。
「あぁ、まだ見た事なかっただろ? バチカルの街をさ」
王都だけあってかなりでかい街なんだ。面白いものもあるし行ってみないか、とのガイの誘いにヒースはタリスを一瞥した後に頷いた。
「せっかくだし、行きます」
「そうか! ……あ、因みにルークにはバレないようにな。あいつに知られたら大変だからな」
心なしか嬉しそうにするガイだったが、思い出したようにハッとすると人差し指を立ててこっそりと二人に口止めをした。
「なら、私がルークの側についてるわ」
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