A requiem to give to you
- 進展を齎す風(3/6) -







…………………。













「………何となく?」

「何じゃそりゃ。まぁ、変に"兄さん"呼びされるよりは良いけどな」



どことなく苦い顔をしてそう言うと同時にグレイは『バルフォア博士の(ry』を後ろに放り投げて立ち上がり、軽く口許を上げた。



「ンじゃ、改めてよろしく頼むぜ。兄弟!」



フィリアムはそんな彼を見つめ、やがて照れ臭そうに頷いた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「もう、無理…………」



その言葉を最後にヒースはバタリと俯せに倒れ込んだ。彼の回りには様々なトレーニング器具が置いてある。しかもそれらは随分と使い続けているのか、どれも傷だらけだった。



「走るのなんてクソくれェだぁぁぁ……」



思わず彼らしからぬ口調で恨めかしい声を出すヒースにガイは渇いた笑いを洩らした。



「ははは……なんつーかなぁ。ヒース、お前って本当に走るのが駄目なんだな」

「そう、なんです…………はぁ」



ヒースは大きく溜め息を吐くと、重そうに腰を持ち上げた。



「オイオイ、それじゃペールみたいだぞ」



軽く笑い飛ばしながらの台詞だったが、本人がいたら大変な事になっていただろう。



「………なんか、重いんですよ」

「重い? 体重がって事か?」



そうは見えないけどな、と言うガイにヒースは何とも言えない顔をして首を軽く捻った。



「いや、体重は……まぁ、平均なんですけど。……強いて言うなら、重い鎖を身体中に巻き付けて深海に沈められたような感じなんです」

「(やった事あるのか……それ?)あー……えーっと、つまりアレか。体重的な重さじゃなくて、何かしらの圧力を受けている感じの重さって事か?」



そう返すガイにヒースはコクリと頷いた。



「そんなところです。でも、これでも大分マシになった方なんですよ。数年前なんて、歩く事すらきつかったんですから」

「え……それって」



確か以前タリスがヒースは昔は木にだって上るような子供だったと言っていた。それなのに今は少し走るだけで息が上がるような状態だ。更に数年前は歩く事すら困難だと言う。……つまりこれは。



「もしかして、昔なんか事故にでもあったのか?」

「えぇ、上から落ちてきた物に潰されて生死の境を彷徨いました」



なんだかやけにあっさりと答えられてしまったが、本人は特に気にしていないようである。それで良いのかなどと思っていると、ヒースは「でも、」と付け加えて肩をすくませた。



「あの時は、偶然上京していた地方の名医さんの手術によって助かりました。特に後遺症が残るような傷もなく治った……筈だったんですけどね」

「じゃあ、やっぱり今のそれは後遺症による神経不随……?」

「それもなんか微妙なんですよ」



そうのまたうヒースにガイは訳がわからなくなってきた。「どう言うことだ」と問うてみると、彼は軽く体を動かしながら説明した。



「手術の後はずっとリハビリをしていて、何とか歩けるようにはなったものの、本来ならもうとっくに全快しても良い筈だと言われて一度検査を受けてみたんです。だけど、いくら精密検査を受けたところでどこにも異常は見当たらず、寧ろ健康そのものだって言われました」

「何だそりゃ……」

「そう思うでしょう? でも実際に手足や体が痺れるような感覚はなかったので神経がやられてる訳じゃないんです。こうして手足もしっかりと動かせますしね」



だからもしかしたら入院生活によって体力が落ちたせいだと考えたヒースはひたすら体力作りに励んだ。走る事は出来なかったので、ダンベルなどの重たい物をもったり、ストレッチをしたり、筋トレをしたりとその場で出来るトレーニングは大体やってきた。


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