A requiem to give to you
- 進展を齎す風(2/6) -


いくら耳を塞いだとは言え、やはり至近距離からの大声はそれなりに効いたのか、グレイはキンキンと未だに耳に残る不快感に顔を顰めた。



「テメェは………毎回何でそんなに元気溌剌(はつらつ)なんだ?」

「それが取り柄だからに決まってるじゃん! ……じゃなくてさ!」



彼の言葉に流されつつもノリ突っ込みを入れるレジウィーダ。首を振ってその話題を隅に置くと、この世界に来てからもらった新しい服(教団支給)のポケットから三枚の紙を取りだして彼の前に突き出した。



「これ、どー言う意味だよ!?」



そう言って彼に見せたのは神託の盾入団許可証だった。



「ンだよ。そのままの意味だろーが」



見てわかンねーのかバーカと言いたげにレジウィーダを見るが、彼女は「違う!」と否定した。



「確かに勝手に入団させた事もそうだけど、それよりもこの名前は何だよ!?」



一枚目の紙には"グレイ・グラネス"と、二枚目の紙には"レジウィーダ・コルフェート"と言う名が書かれていた。そして最後の紙には……



「この"フィリアム・グラネス"って! 何勝手にアンタの弟として登録しちゃってるわけ!?」



あたしは許可してない!と、レジウィーダは腰に手を当てて憤慨した。



「別にテメェが許可してなくても、フィリアムが許可したから良いンだよ」

「え、俺は別に何もi……」



フィリアムが何か言いかけたが、グレイが机の下から彼の足を軽く蹴った事によって遮られた。



「それにオレは前もって言ってた筈だぜ。こいつはオレのお・と・う・とにするってな」

「だから何でアンタなんだよ! 普通に考えて可能性のあるあたしじゃない!?」

「でもお前、実際こいつに姉だって認識されてねーじゃん」

「……うっ」



図星を指され、レジウィーダは思わず半歩後退する。

確かにただ被験者とレプリカと言う関係(かも知れない)だけで姉弟と言うのはまた少し違うのだろう。今まで殆ど関わりを持っていないレジウィーダを姉と言うよりは、幾分信頼されてる(?)グレイの方が仮とは言え兄に相応しいのかも知れない。



「うぅ〜〜」



レジウィーダは妙な唸り声を上げ、フィリアムを見る。当の本人の困ったように見返すの確認すると、ガックリと肩を落として、フラフラと図書室を後にした。



「ったく、忙(せわ)しねェ奴だな」

「……って言うか、あの人。本当の事知らなかったんだ……?」



とっくに知っているものだと思っていたフィリアムは驚きを隠せずにいると、グレイは「まぁな」と頷いた。



「そもそも本人は経緯すら覚えてねーみてェだし。なら、もうちっと黙ってても良いかねェ、とか思ってる」

「何で?」

「……面白そうだから」

「……………」



如何にも彼らしい理由にフィリアムは小さく嘆息した。しかし直ぐにはたとして何かを考える仕草をすると、恐る恐ると口を開いた。



「………あのさ」

「何?」



グレイはまた先程までと同じ様に適当に流し読みしていた『バルフォア博士の音素実験集 ・改』の手を止めて視線を寄越した。



「何て言うか………アンタ、"兄"なんだよな」

「まぁ、取り敢えずお前が"一人前"になるまでの、かね?」

「?」



意味深な物言いに首を傾げたが、グレイの次を促す雰囲気に慌てて言葉を紡いだ。



「なら、あのさ…………














兄貴って呼んでも良いか?」

「それは別に構わねーけどよ……」

「けど?」










「何で敢えて"アニキ"なんだ?」


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