A requiem to give to you
- 家眷と花瞼の姫君(2/6) -



「とにかく、使用人……況してや新人だと言うならばもう少しその太々しい態度を改めるべきですわ! そうでなければ、この先必ず潰されますわよ!」

「…………………」

「だからナタリア」

「只でさえ男女の主従関係と言うのは昔から良い話を聞きません。叔父様もそれをわかっていながら何故………」

「だーーーーっ!! もう、お前いい加減にしろよ!!」



いい加減業を煮やしたルークがナタリアを怒鳴りつける。そこで漸くナタリアは口を閉ざした。



「お前、さっきから何なんだっつーの! 人ン家来るなりゴミを落とすは使用人を怒鳴り散らすは……やかましいんだよ!」

「なっ、ゴ、ゴミ!?」

「ゴミじゃねぇか! つーか、あんな所に落としやがって、誰が掃除すると思ってるんだよ!」



ルークが指差す先には既にその物体の片付けに掛かるメイド数人の姿があった。何とも仕事が速い、と内心感心しつつ彼はナタリアを再び向いた。



「それにタリス達を使用人に指名したのは俺だ! 俺が父上に無理言って任命してもらったんだよ」

「え……?」

「俺が誰を側に置こうとお前には関係ねぇだろ。ガイだって使用人で友達なんだ。ならタリスやヒースだって使用人で友達だ!! 誰にも文句は言わせぬぇ!」

「ルーク……」



言うだけ言うとルークはこれ以上の文句は聞かないとばかりにナタリアに背を向ける。ナタリアはルークに声をかけるが、彼は答えなかった。



「お、おい……ルークっ」

「何っだよガイ」



焦ったように呼ぶガイにルークは苛々したように返す。すると彼は後ろを指差した。



「? …………っ、ナタリア!?」



ガイに促されるまま振り返ると、今までの勢いは完全に消え失せ、静かにポロポロと涙を流すナタリアがいた。



「な、何もそんな……泣く事なんかねぇだろっ?」

「わ……わたくし、は…………っ」

「あ、おいっ、ナタリア!」



ナタリアはルークの静止を聞かずに走り去ってしまった。残された者達の微妙は沈黙がその場を支配する。



「ったく、どうしろってんだよ!」

「ルーク」



焦ったように舌打ちをするルークにタリスが声をかけた。



「ありがとう」

「へ?」



突然のお礼にルークはポカンと呆けた。それに構う事無くタリスは一つ笑みを浮かべるとナタリアを追い掛けた。



「……な、何なんだ一体?」

「君、さっきタリスを庇ってくれただろ」



ヒースがタリスの去って行った後を眺めていたルークにそう言うと、彼は途端に照れたように「別にそんなつもりで言ったんじゃねぇって」と否定した。



「君にそんなつもりはなくても、こっちとしては十分ありがたい事なんだよ」



まぁ、ナタリア様に大してはかなり失礼なんだけどね、と後に肩を竦めて付け加えた。



「だから、僕からもお礼を言うよ。ありがとう」

「や、やめろよな。……な、何かむず痒いっつーの」



頬を掻きながら目を逸らすルークにヒースは目を細め、ガイとペールは顔を見合わせながら苦笑した。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「ナタリア様」



既に邸を後にしたかと思われたナタリアは意外にも直ぐ側にいた。使用人やメイド達の部屋へと続く廊下の隅で一人蹲ってる彼女を見つけたタリスは安堵すると共にその僅かに震える肩にそっと触れながら声をかけた。


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