A requiem to give to you- 家眷と花瞼の姫君(1/6) -
自分には許さなかったその距離を、彼は貴女に許した。
それが酷く羨ましくて
悲しくて
すごく
寂しくなった。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「ル、ルーク……」
あまりに不気味且つ気味の悪い音のした方を全員が振り向くと、そこには今にも泣きそうに顔を歪めた金髪の美少女がいた。気のせいか、背後にとてつもなく危ないオーラを放っているように思える。
「ナ、ナタリア!? お前、いつ来たんだよってか、どうしたんだ?」
思わぬ訪問者に驚きつつも、何故彼女がそのような表情をしているのかがわからずにルークが問いかける。するとナタリアと呼ばれた少女は泣きそうなその顔から一変し、形の良い眉を吊り上げた怒りの表情を浮かべた。
「どうした………ですって!?」
「な、何だよ?」
「何だよではありませんわ!!」
突然の彼女の激怒に訳がわからずしどろもどろになるルークにカツカツとヒールの音を響かせて近付いたナタリアは、彼の目の前まで来るとビシッと彼の後ろにぴったりとくっ付いているタリスを指差した。
「貴方! 婚約者のわたくしと言うものがありながら
メイドに手を出しましたわね!?」
「…………は?」
「ヒース、私ってルークに手を出されてたのかしら?」
「……知らんがな」
「てか、突っ込む所そこじゃないって」
「…………………」
他者多様の反応である。まだまだ(ツッコミを)頑張るガイの隣ではペールは最早歳n……突っ込む気力がないのか、笑顔のまま停止している。
「ナタリア、何勘違いしてんのかわかんねぇけど、タリスはメイドじゃねーぞ」
「まぁ! ではわたくしに隠れてセフ「初めましてナタリア様。私はつい最近ルーク様の使用人に新任したのタリス・クレイアです。以後よろしくお願いしますね」
流石にこれ以上をまずいと思ったのかタリスは漸くルークから離れて自己紹介をした。
「使用……人? ガイ以外にルーク専属の使用人が就いたと言う事ですの?」
「そ、そうなんですよ。彼女は一週間ほど前からそこのヒースと共にルーク様の身の回りのお世話をしています」
明らかに訝しむナタリアにガイがヒースを紹介しつつ説明をした。
「そうでしたの」
どうやら納得はしてくれたらしい。
「ですが! 使用人なら尚更、行き過ぎた行動は控えるべき事ですわ! まだ身内だから良かったものの、もしもこれが他の貴族やマルクトの者だったとしたら………!!」
「お、おいナタ「ルーク! 貴方は少し黙ってて下さいな!」
完全に暴走するナタリアにルークが声をかけるが一喝され、押し黙らせられる。それにガイがまあまあと割って入った。
「そうカリカリなさらずに。少し落ち着いて下さいナタリア様」
「ガイこそ! わたくしは今この娘と話していますわ!」
「あ、はい。スミマセン。ですから近付かないでええええっ!!」
「あらあら」
「他人事のようにしていますが、貴女のせいでこんな事になっているのです! わかってらっしゃるの!?」
ガイの悲鳴に我関せずと傍観に徹していたタリスにナタリアが尤もな意見をぶつけながら怒鳴る。
「あのナタリアって人は誰なんですか?」
何だか修羅場っている人達に巻き込まれないようにと早々に避難していたヒースはペールに問いかけた。
「あの方はナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディア様と言ってな、インゴベルト六世陛下のたった一人の愛娘なんじゃよ。加えて、ルーク様の婚約者でもあるんじゃ」
「ああ、成る程」
それじゃあ怒るのは当たり前か、と納得するヒースを他所にペールは溜め息を吐いた。その視線の先には先程ナタリアが落としたと思われる謎の物体があった。
「これは後が大変じゃな」
それは今のこの状態なのか、それともあの砕けた皿らしき物と共に落ちている見るも耐えない姿に変貌した物体の処理の事なのか。ペールの心境を理解する者はいなかった。
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