A requiem to give to you- 笑劇と衝撃の庭(5/5) -
(……落ち着け。落ち着くんだヒース。仮にも相手はお嬢様。いつものちょっとしたおふざけなんだ。手だけは挙げませんように……)
そうヒースは心の中で自分に言い聞かせると共に我慢の神様(?)への祈りをすると、前髪で隠れている米神を押さえた。
「………まぁ、冗談はこのくらいにして」
「あら、結構本気だったのに」
「君はちょっと黙っててくれないか?」
半ばキレ気味にタリスに釘を刺し、ルーク達を振り返ると積もる怒りを払うように咳払いをした。
「……ところで、さっきから気になっていたんだけど。そのボール、どうしたんだ?」
いつの間にかルークの手に戻っていたサッカーボールを指差して問うと、ガイはああと言って答えた。
「これか。実はさっきルークが退屈だーって駄々を捏ねたもんでね。どうしようかって話になった時、タリスがどこからか持ってきてくれたんだ」
ガイの後ろ辺りで「俺は駄々なんか捏ねてぬぇっ」とルークが叫んでいるような気がしたが取り敢えずスルーしてタリスを見ると、再び何食わぬ顔で(ペールをも交えて)午後ティーを楽しんでいた。
「オイコラそこのお嬢様」
「何かしら?」
何とも微妙な語呂で声をかけてきたヒースに如何にもわかり切った顔で返すタリス嬢。何故か違和感なく行われるその会話に違和感を感じつつもルーク達は少し離れて事の成り行きを見守っていた。
「僕の荷物、また荒らしたよね?」
"また"の部分が嫌に強調されていたのは恐らく気のせいではないだろう。タリスは心外だとでも言いたげに肩を竦めた。
「あら、私は主(ルーク)の退屈を紛らわせようと、常に自分では使えもしない癖に色々と持ち歩いている貴方の運動用具をお借りしただけですのよ」
「ほう、ならば何故その運動用具と一緒に『例のブツ』がなくなっているのでしょうかね?」
どうやらヒースにとって運動用具よりもそっちの方が重要らしい。軽く俯き眼鏡を押し上げる彼の表情は伺えないが、恐らく……否、間違いなく怒っているのだろう。
「『例のブツ』……? あぁ、もしかしてコレの事かしら」
そう言って彼女が取り出したのは、スケルトンケースに入った真っ黒の………
「音盤《フォンディスク》か?」
ガイがタリスの手にあるCDのような物を見て言う。ヒースは「違う」と首を振った。
「そうじゃなくて……」
「AVよ」
「え!?」
「違うっ!!」
誤った説明をし出すタリスにヒースは全力で否定する。それにルークが密かに残念がるのを見たペールが生暖かい目をして「ルーク様もお年頃ですかな」と染々としていたが誰も気付く事はなかった。
「とにかく! 君がそれを持っている事に何の価値もないんだ」
だから返せ、と手を差し出す。しかしタリスは口許に手を当てて微笑むと……
「イ・ヤ・よ・v」
と、『例のブツ』を片手に逃げ出した。
「! 待て!」
同時にヒースも駆け出す……が、
「ゼェ……はぁ………………………疲れた」
30秒と立たない内に撃沈した。
「早っ」
「ほ、本当に駄目っぽいな」
地面に膝を着いて肩で息をするヒースに三人は苦笑と哀れみを浮かべた。そこで漸く戻ってきたタリスはルークの背中に張り付き、後ろから覗き込むようにヒースに勝利のサインを送った。
「ほほほ、まだまだねぇ。ヒース」
「くっ………」
ヒースは文字通り悔しそうに拳を奮わせた。しかも思いっきり彼女に乗せられていた事にも気付き、彼は頭を抱えたくなった。
一先ずタリスの勝利(いつ勝負になったのやら……)で締め括った午後の楽しい一時が終わろうとしたその時、ソレは嵐の如くやってきた。
ベチャッ
まるでトマトを落とした時のようなどこか気味の悪い音が聞こえた。
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