A requiem to give to you- 笑劇と衝撃の庭(3/5) -
「え、そうなのか?」
ガイが意外そうに言うと、それにペールも同意した。
「全然そうには見えないがなぁ」
「そうかぁ? 俺からしてみれば、こいついかにも部屋に閉じ籠りっ切りで机にかじり付いてそうに見えるぜ」
ルークがかったるそうに思ったままの感想を述べた。
「まぁ、強ち外れてはいないわよねぇ」
「………………」
タリスは苦笑しながら肩を竦め、ヒースは特に反応を示す事なく眼鏡を外し濡れた服の端で拭いていた。それを見たガイが苦笑しながら止めた。
「おいおい、いくら何でもそれで拭くなよ。それにこのままじゃ風邪引くし、取り敢えず着替えてこいよ」
未だに彼らヘの不信感があるにも関わらず、ついつい世話を焼いてしまうのは彼自身の人の良さなのだろう。ガイの言葉にヒースは暫し考えていたが、やがて頷くと邸内へと歩き出した。
「いや、だから走れって……」
そうルークが言うがヒースの耳には届く事なく、彼は邸内に入っていった。
「だから、あの子は重度の運動音痴なんだってば」
「重度重度と言うが、そんな走れないくらい駄目なのか?」
それはいくらなんでも極端すぎるが、そう思わざるを得ない言い方にガイは素直な疑問をぶつける。するとタリスは困ったように一つ笑った。
「そうなのよねぇ。50mを全力疾走で1分切るのがやっとみたいだし」
「「えぇ!?」」
まさかの肯定にガイとルークは素っ頓狂な声を上げる。同じく黙って聞いていたペールも声こそ上げなかったが、やはり驚きを隠せずにいた。
「い、いくら何でも遅すぎだろ!」
「mじゃなくて、"km"の間違いじゃないのか!?」
「50kmを1分弱で走り切るのも無理だと思うんじゃが」
ペールは何だか感覚がズレだしているガイにそう言って苦笑したが、直ぐに考える仕草を取ってヒースの行った方向を見やった。
「しかし……本当にわかりませんな」
それにガイも頷いた。
「あぁ。アレだけ運動能力に長けているように見えるのに、全く出来ないだなんて」
「どうしてそんな事がわかるの?」
ガイならば仕事の時に共にいる時間がある分何かしらわかるかも知れないが、ペールに至っては先程初めてまともに対面したに過ぎない。なのに、見ただけでそこまで自信を持ってそう言える根拠は何なのだろうか、とタリスは彼に訊ねた。
「………長年の勘じゃよ」
歳を取ると何かとわかるようになるんじゃ、と笑うペールにタリスはどこか訝しむ様子を見せたが、「ふーん」と言ってそれ以上の追求はしなかった。
「まぁ、ヒースはアレで運動部顔負けの体付きをしているから。力もあるし、学校とかだと同性のクラスメイトなんかは結構騙されるみたいなのよねぇ」
普段ヒースは何かと自分の体よりも大きめの服を好んで着る傾向がある。その為解りづらいが、確かに彼は小柄ながらもしっかりと筋肉もついているし、筋力にも安定感がある。だからこそ、そんな彼を見たクラスメイトの運動部の人達などによく勧誘を受けるらしいが………。
「走る事すら困難なんだもの。当然全部断ったみたいよ」
「だろうな…………って、言うか」
「同性………………は?」
タリスの言葉に苦笑して頷きかけたガイだったが、途端に言葉を止め、彼と同じ事を思っていたルークが代弁した。
「お前、女だよな?」
「これで男にでも見えるのかしら?」
そう質問で返したタリスは笑顔ながらもどこか冷やかなオーラが出ていた。ルークは直感的にそれを感じると慌てて首を横に振った。
「あ、いや……そうじゃなくて………」
「何で女のタリスがヒースの服の下の事を知っているんだって言いたいんだろう?」
「お、おう。それだ」
(それも少し違う気がするんじゃが……)
言葉に詰まるルークにガイがフォローするも、その仕方にペールは複雑な気分になっていた。しかしタリスは気にならなかったらしく、別の意味で含みのある笑みを浮かべた。
「ふふ、それは……………彼とは幼馴染みだし、それなりに付き合いは長いのよねぇ」
「あ、成る程。そう言う事k……」
「じ、じゃあ、それってつまりお前らってそ、その………風呂とか一緒に入ってたりしたのか!?」
「「ルーク(様)!?」」
漸く合点のいったガイの言葉を遮ったルークの大爆弾発言にガイとペールが固まる中、タリスは笑みを深めて小さく首を倒した。次の瞬間、ルークの頭に衝撃が入った。
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