A requiem to give to you
- 紅葉の踊る秋の風(2/4) -







チリンチリン




















ドカッ





















中々小気味の悪い音が聞こえた。因みに今のは恐らく聖が自転車に轢かれた音だろう。彼を轢いていった赤い制服を着た少女はキキーッとブレーキをかけて「あ……」、と間の抜けた顔をすると地面に突っ伏したまま動かない聖に駆け寄った。



「あー……おーい、生きてるー?」



しかし彼からの返事はない。



「むん……まるで屍のよu「勝手に殺すな」



あとそれ微妙に古い、と言って聖は漸く起き上がる。それに少女はあははと苦笑しながらその外ハネの黒髪を掻いた。



「いやー悪いね。一応ベルは鳴らしたんだけど」

「ヘッドホンしていたのが見えなかったのか?」



聖が不機嫌そうに問うと、少女はあっさりと頷いた。



「うん、見えた。だからこそもしかしたら漫画みたいにタイヤの跡残しながら轢けるかなーと」

「ふざけんなよ?」



ギッと怒りを込めて睨み付けると少女は慌てて両手を振った。



「じ、冗談だってばジョーダン。ホントに悪かったって。ごめんね」



今度はちゃんとした謝罪をし、聖が許した所で少女は話を切り替えた。



「んでさ、何だか悠長に歩いてたみたいだけど……良いのかな?」

「良いのかなって……何がだ?」



何の事だかわからない聖に逆に今度は少女の方が呆けた表情になった。



「だって今日あたしら涙子に呼ばれてるんじゃなかった?」



少女のその言葉に聖の表情が変わった。



(そう言えば今日は……)



今日は自分達……特に涙子や陸也、そして目の前のこの少女にとってとても大切な日である。元々はあの皆川 涙子が言い始めた事だ。自分は事情を知ってる分、忘れてたなんて言ったら………



「……殺される、よな。多分」

「? 何が?」

「君は気にしなくて良いよ……」



はぁ、と今度は明らかに苦難の溜め息が漏れた。しかしそんな彼を少女は特に気にした様子も見せず、ふーんと言って自転車に跨がり聖の腕を引っ張った。



「それより、急ぐっしょ? 乗りなよ」



ハイスピードで行きまっせお兄さん、とどこかの爽やか言う姿は見事に『黙っていれば可愛らしい(?)容姿』とミスマッチしていた。



「……そう。じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」



僅かな間の後、聖は轢かれた時に落とした鞄を持ち直し、ヘッドホンを耳に着けて自転車の後ろに乗り込んだ。彼が完全に乗ったのを確認すると、少女はニッと笑ってペダルに足を掛けた。



「それでは、1年A組、日谷 宙、本日フルターボマッハ速ダッシュで逝っきまーす☆」



そんな突っ込み所満載な叫びが終わった頃には彼らの姿はなくなっていた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







『お掛けになった電話は現在電波の届かない所におられるか、電源が入っておりません。発信音の後に──……』



音声を最後まで流し切る前に電話を切り、涙子は再び陸也を向いた。



「通じないわよ?」

「…………………」



それを自分に言われても仕方がないのだが、彼女の背後に膨れつつある黒い何かを見てしまうとどうしても言う事が出来ない。



(こりゃ、そろそろ危ねーな)



陸也は直感でそう思った。
















……いい加減彼女の我慢が限界に近付いている、と。正直、彼女が切れると何が起こるかわからないから怖い。



「来ないわねぇ。まさか忘れてるいるのかしら?」



口調こそ穏やかだが、彼女は俗に言う"腹黒"だ。証拠に今一瞬だけ彼女の右手に太い針のような物が数本見えた。



「……って、オイ。涙子、お前今何隠した?」

「あら、別に隠したつもりはなかったんだけど……」



そう言って己の右手を見せてきた。するとそこには……






















鋭い棘のついた拳鍔が装備されていた。
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