「知らね。ただ一つ言える事があるっつえば………」
「何だよ?」
「別にお前がフィリアムの被験者だろうがそうでなかろうが、あいつはオレの義弟だって事だ」
あっけらかんと言い放たれた言葉にヴァンとレジウィーダの目が点になった。
「……は? え、ちょっと待てよ。誰が誰の義弟だって?」
「だからフィリアムは、オレのお・と・う・と」
ピキッと皹が入る音がしつつ、レジウィーダは震える声で更に訊いた。
「いつそんな話になったんだよ?」
「さっき、火山でお前に会う前だ」
「あの子は知って……「る訳ねーよ。オレが勝手に決めたンだからな」
フンッ、と何故か勝ち誇ったかのように言う彼にレジウィーダはバンッと机叩いた。
「ちょっと! アンタ何勝手に決めてるんだよ!?」
「あぁ? 別に良いじゃねーか。もう決めた事だしよ」
「でももしも本当にあたしがフィリアムの被験者だとしたら、あたしがあの子のお姉さんになるって事じゃん? だったらあの子はあたしの弟だろ」
「まだ決まってねーしー」
頭の後ろで手を組んで背を向ける彼に「でもわからないよ」と反論する。そんな二人の間にヴァンは苦笑混じりに割って入った。
「まぁ、そう争うな。……フィリアムが誰の弟であるかはともかく、レジウィーダが本当にフィリアムの被験者かどうかは、産みの親であるディストに聞いた方が確かだろう。それに……」
「オイ、後ろ」
唐突に言葉を遮り、そう言ったグレイにヴァンが振り返ると…………
バサバサバサバサッ
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「………アンタ、今机を蹴らなかった?」
レジウィーダが音を立てて崩れた本の山の下敷きになったヴァン・グランツがいるだろう辺りから目を離さずに言った。積み重なっていた本はどれも分厚く、どうも当たり所が悪かったのか彼が起き上がる気配はない。そして本の山が崩れる際、見間違えではなければグレイがヴァンに声をかけたと同時にそれらが乗っていた机の足を蹴っていたように彼女には思えた。しかし、当の本人はどこ吹く風と言った感じで、
「気のせいだろ」
と、言った。
「ま、とにかくだ。あいつはオレの義弟だ。それだけは譲らねーからな」
それにレジウィーダはムッとした。
「アンタがそう言うなら、あたしは意地でもフィリアムとシンクのお姉さんになってやるから良いよーだ!」
ベーッと舌を出して宣うレジウィーダだったが、結局どちらも本人らの意志は無視だった。全く持って傍迷惑な話である。
「それにこの人の言う通り、あのディストって人に訊けば何かわかるかも知れないしね!」
そう言って足早にレジウィーダは図書館から出ていってしまった。
しかし……
「あいつ、場所わかンのか?」
入口を見ただけでもここはかなりの広さがある。それに教会とくれば何かと仕組みが複雑で、彼女が真っ直ぐにディストに会えるとは思わなかった。
「ま、良いか」
困るのはオレじゃねーし、とグレイは欠伸を一つして譜石に一番近い机に突っ伏した。
余談だが、その後彼の予感は的中し、レジウィーダはあまりに広すぎる教会の中で数時間迷った挙げ句、結局ディストに会う事は出来ないのだった……。
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