「お前達、先程から何を騒いでいる。管理人からこちらに苦情が来て………?」
少し怒った様子で入ってきたヴァンだったが、見慣れない紅髪に疑問符を浮かべた。直ぐに気が付いたレジウィーダは先程のボロボロになったウィッグを取り出して見せた。
「あー……これ、ウィッグなんだよね」
「ん? ……あぁ、レジウィーダだったか」
「何だよそのボケ老人みたいな反応は」
合点のいったと言うヴァンの言葉にグレイのツッコミが入る。それにレジウィーダは「コラッ」と声を張り上げて彼の頭をグーで殴った。
「いてっ………ンのアマッ……!」
「ちょいちょい、そう言う事は言うモンじゃないよ。いくら中年でも、まだまだ腐るにはどー見たって早いっしょ」
「……そこなのか?」
然り気無くレジウィーダが一番酷かった。ヴァンもまた微妙にショックを受けたような顔をしていた……が、直ぐに持ち直して咳払いをした。
「まぁ、良い。それでお前達は何を揉めていたのだ?」
再び同じ質問を問われ、レジウィーダは思い出したように持っていた本を胸の高さまで持ち上げた。
「何か………あたし、この本が読めるみたいで」
「読めるのか?」
コクン、と一つ頷く。
「それでこいつがあたしが以前にもこの世界に来た事があるんじゃないかって」
グレイを指差しながら言うと、ヴァンは「ほう……」と考える仕草をした。
「でも、あたしはそんな覚えないし……。だからと言って、この世界の文字が読めるってのも確かだし………う〜〜〜ん」
本人も相当己のこの状態に困惑してるのだろう。レジウィーダはその紅い髪を掻きながら唸った。ヴァンはそんな彼女をジッと見ていたが、何かに考え至ったのか、もしやと口を開いた。
「レジウィーダ」
「うん?」
「お前はもしかして………
フィリアムの被験者なのではないか」
「……………!」
「フィリアムの?」
ヴァンの言葉にグレイはピクリと微かに反応を示し、レジウィーダは首を傾げた。
「確かにあの子とは少し似てるかもとは思ったけど、フィリアムは男の子でしょ? それに見た感じ、どう見てもあたしより年下だと思うんだけど」
「あぁ、私から見てもフィリアムはお前よりは幼いだろう。しかしそれは被験者の情報を抜いた頃の物が反映されているだけに過ぎん」
そうなんだ、と呟くと彼は頷きつつ続けた。
「それにだな。正直な所、お前達は少しどころか………寧ろ瓜二つと言った顔立ちをしているぞ」
特に先程のようにウィッグをした状態の時は遠目から見たら双子のようにも見える、とヴァンは言うが、レジウィーダはいまいち納得のいかない表情をしていた。
「うーん。それでも、ほら。やっぱあたしとフィリアムは性別自体が違うじゃない? それにさ、世の中には自分と同じ顔は三人はいるって言うし。他人の空似でしょーよ」
「性別……か」
ポツリと呟いたグレイの言葉が二人の耳に入る。
「お前は何か知ってるのか?」
知っているどころか、あまり知らなくても良い所まで既にディストから語り聞かされている。グレイは二人に本当の事を話してしまおうかと悩んだ………が、
(ただ話してもつまんねーよなァ……)
こんなにもレジウィーダの慌てふためまくる姿と言うのが彼の目には珍しく、そして滑稽に写っていた。今ここで真実を話し、結論を出させるのは実に惜しい………などと中々意地の悪い事を考えていた。
グレイは心の中でほくそ笑むと、それを隠すように態とらしく肩を竦めた。
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