A requiem to give to you
- 早朝の図書館(6/8) -



「言っとくけど、今のは態とだからな」

「……さいですか」



もー良いやとレジウィーダは一気に脱力してまた別の本を手に取って読み始めた。














─────が、















「オイ」



また暫くやる事もなくなった二人は適当に暇潰しをしていたが、この世界に来る前と同じ髪型にセットし終わったグレイが次々と新しい本の山を作っていくレジウィーダに問い掛けた。



「そんなの読んでて楽しいのか?」

「んー……」



そう返事をすると、丁度読み終わった本を閉じ、山の天辺に投げ置いた。



「楽しいって言うか、面白いよ。特に歴史とかさ、調べれば調べる程色々と出てくるし」

「………そうか」

「例えば、この地の名前……ダアトって実は2000年以上前の人物の名前らしいんだ。あと、皆が崇拝しているユリアって人も、実在したらしい」

「………………」

「この世界には預言って言うのがあるんだけど、それは譜石って言う特殊な石に未来が刻まれた物なんだって。……で、それを読む事の出来るのが預言者。ユリアは最初の預言者であり、ローレライと契約した人らしいよ。………あとは……」

「オ・イ・!」



自分が振った話題とは言え、放っておけばいつまでも話してそうな勢いなレジウィーダにグレイはストップをかけた。



「別にンなこたーどうでも良いンだよ」

「何だよ。アンタが訊いて来たんじゃん」

「オレが訊きたいのはそんな事じゃねェ」

「はぁ?」



じゃあ何が言いたいんだ、とレジウィーダは訝しげに問う。グレイはそんな彼女に最初に渡された本を投げ返した。



「そんな音符のような字の羅列をずっと見てて何が楽しいのかっつってンだよ」

「? 確かに音符っぽいけど、これはフォニック文字って名前がちゃんとあるんだよ」

「…………………」



質問の内容にレジウィーダが首を傾げて返すと、彼の顔が盛大に引き吊った。



(……気付いてねーのかよ)



ズキズキと痛む蟀谷(こめかみ)を押さえ、違和感に全く気付いていない様子の彼女にグレイは盛大な溜め息を吐いた。



「知ってる? 溜め息を吐くと禿げるんだよ」

「……それを言うなら幸せが逃げる、だろうが…………つーか、お前。気づかねーのかよ」

「何が?」

「その本」



そう言ってレジウィーダの手元に戻った本を指差すが、やはり彼女は首を傾げるばかりだった。



「言っとくがな。オレはその本……































全く読めねェぞ」

「…………!?」



その言葉で漸く己の違和感に気付いたらしい。レジウィーダは目を見開いて固まった。

思えばおかしい話なのだ。レジウィーダ達はつい数時間前にこの世界に来たばかりで、扱う言語の異なる世界の文字が読める筈がない。しかし、彼女は何も疑問すら持たずにあっさりと読めてしまった。



「お前……この世界に来た事があるな?」



それは問いと言うよりは確認だった。同時に、グレイはアラミス湧水洞での事を密かに思い出していた。もしも己の考えが間違っていなければ、彼女が嘘を吐いている事になる。……だがレジウィーダの様子は、嘘がバレた焦りと言うよりも、何故自分はこの世界の文字が読めたのだと言う疑問と混乱に満ちていた。



「この世界に来た事……? ない………筈だ、多分。でも………何で」

「覚えてねェとか?」



レジウィーダは首を横に振った。



「わからない。でも少なくとも記憶にはないよ………絶対に」

「………どう言う事だ?」



恐らく彼女は嘘は言っていないのだろう。だが、グレイの予測も外れてはいないと思われる。しかし何かが合わない。抜け落ちているピースがあるとすれば、間違いなくレジウィーダにあるのだろうが………やはり納得のいく理由が見付からなかった。

二人が悩んでいたその時、扉が開く音がした。


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