A requiem to give to you
- 早朝の図書館(5/8) -



「ほら、オレってカッコイイから」

「自分で言うなや。それにアンタには涙子がいるんだから、あんまり女の子達を誑かさないでよね」

「誑かすかっ。人聞きが悪い」



直ぐ様己の名誉(?)の為にツッコミを入れるグレイ。それを軽く流したレジウィーダは自分の髪を手で掴み引っ張った。すると黒髪は取れ、中から二つに纏めた紅色の長い髪が現れた。



「乱暴ー」



引っ張った時に勢いで取れたヘアピンを見ながらグレイが呆れたように言った。レジウィーダは落ちたヘアピンを拾い、黒髪……ウィッグと交互に見ては溜め息を吐いた。



「どっちももう、使い物にならないや」

「無理矢理取ったからじゃね?」

「違うわっ。この世界に来た時の衝撃とか、溶岩の直ぐ側に行った時の熱気とか、あのヴァンっておじさんに斬られたのとかでもうボロボロになってたの! わかった!?」

「あー……それにしても寒いなー」



見事なまでの全スルーである。いい加減殴り飛ばしてやろうかと指の間接を鳴らしたレジウィーダだったが、次のグレイの言葉にピタリと止まった。



「いくら温暖っつっても、10月の寒さじゃねーだろうよ……」

「10月……? 何言ってるんだよ。今は12月だよ」














………………。













「……は?」



サラリと事もなしに言ったレジウィーダにグレイは「お前頭大丈夫か」と言いたげな視線を送った。それに気付いた彼女はハッとして訂正した。



「あー……そうじゃなくて。この世界では今12月って事」



異世界の時間は別に地球と繋がっている訳ではないので、違うのは当然と言えば当然である。それを踏まえて言えばグレイはそんな事かと納得した。



「そうか……。そう言えばそうだったな……………って、そもそも何で今ここが12月だってわかるンだ?」



グレイが素直に疑問をぶつけると、レジウィーダが壁に掛けてあるカレンダーらしき物を指差した。



「あそこのカレンダーに『ルナリデーカン』って書いてあるよ。『ルナリデーカン』はあたし達の世界で言う12月らしいんだ」



この本に書いてあったんだ、と先程まで読んでいた本を取りグレイへ手渡す。



「この世界は『レムデーカン』から始まり、『ローレライデーカン』で終わる。『ローレライデーカン』が『ルナリデーカン』の次の月に来るから、この世界の一年は13ヵ月あるって事なんだね」

「ふーん」

「それに日数も地球とは全然違うみたいだし、全部合わせると地球の約2倍もあるよ」

「ほーへーふーん」

「………ちょっとアンタ、まともに聞いてる?」



本のページをパラパラと捲りながら生返事をするグレイに怒ったように問うと、彼は手をパタパタと振った。



「聞いてる聞いてる。それよか、"レム"だとか"ルナ"っつーのは何か聞いた事があるンだけどよ、"ローレライ"っつーのは何だ? ドイツの都市伝説に出てくる怪物か?」

「……それ、ここの人達に聞かれたらアンタ、タコ殴りにされるんじゃないか?」



オイオイと引き吊った笑いを浮かべ、レジウィーダは別の本を手に取って開いた。



「"ローレライ"や"レム"ってのは、音素意識集合体の名前みたいだ。"ルナ"だけは違うみたいだけど」

「音素意識集合体?」

「うん。音素意識集合体は………まぁ、簡単に言えばどこぞの世界にいた"精霊"と同じ様なモノだと思えば良いんじゃないかな」

「それはオレだからまだ通じるだろうけどよ、聖や涙子だったらその説明じゃわかンねーぞ。それに………精霊も怪物も変わらないと思うンだが」

「ツッコミ所はそこなの?」



変な所でツッコミを入れるグレイ。真顔で言ってくれるものだから、こいつ実は天然入ってるんじゃないのだろうかとレジウィーダは時々本気でそう思った。


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