A requiem to give to you
- 早朝の図書館(4/8) -


もう一度レジウィーダを見れば、どこか不安そうな表情をしていた。



「何ともないのかよ?」

「別に……つーかお前、もしかして心配でもしてンのか?」



グレイは物珍しげにそう宣う。するとレジウィーダの表情は一転し、眉を釣り上げて怒りの表情を露にした。



「バッカじゃないの? 誰がアンタを心配するってんだ。自惚れんなバーカ」



ブチッ、と何かが切れる音がした。



「あぁ!? 誰が馬鹿だ誰が! しかも二回も言いやがって」

「寒いのが苦手な癖に外で水遊びなんてする奴のどこがバカじゃないって言うんだよ?」

「水遊びじゃねェ! つーか、好きで濡れたンじゃねーよ!」



勝手に解釈すンじゃねーよバーカバーカバーカ、と三連続の馬鹿発言と共にレジウィーダもキレた。



「あたしはアンタよりバカじゃない!」

「いーや、馬鹿だな! 言ってる事もやってる事も全部幼稚だぜ」

「そんな事ないね! アンタが全ての事において面倒臭がってるからそう見えるだ・け・だ・!」

「面倒臭がってるンじゃねェ、冷静沈着な・ん・だ・!」

「HAHAHA、その状態のどこが冷静沈着なのか是非ともエクスプレインして頂きたいデスネー!?」

「テメェ日本語喋りやがれ!!」

「ここ日本じゃないしー」



レジウィーダは頭の上で手を組んで彼に背を向けた。



「とことんムカつく奴だな、お前」

「それ、そっくりそのまま返すわ」



実に幼稚なやり取りである。この二人が喧嘩仲なのは今に始まった事ではないが、いつもならどこかで誰かしらが止めるのでそこまで酷くならない。しかし今この図書館には二人しかいない。最初は何人かいたようだが、二人の様子が険悪になるにつれて早々に避難したようだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「………オレからも一つ言いたい事がある」



漸く一段落付いたのか、言いたいだけ言い合った二人は互いに睨み合いながら肩で息をしていた。その中で、不意にグレイから出た言葉にレジウィーダは訝しげに彼を見た。



「お前のその髪、どこのV系だ?」

「はい?」




予想とは違う言葉にレジウィーダは思わず拍子抜けしたような間抜けな声が出た。



「気付いてねーンなら鏡を見てみろ」



ホレ、とグレイが持っていた鏡を投げ渡す。それを片手で受け取ると直ぐに確認をした。



「別に何も変わって…………っ!?」



レジウィーダは突然慌てて右の前髪を手でバッと隠した。彼女は気付いていなかったようだが、先の火山で起きたヴァンとの諍いの間に前髪の一部を斬られ、その黒髪の下にあった紅髪が出てしまい、それがまるでメッシュが入ったような状態になっていたのだった。



「い、いつから………」

「少なくともオレが火山に行った時からはそうなってたぜ」



あわあわと焦る彼女にグレイは笑いを堪えるように肩を震わせて答える。



「ちょっと! 何で言わないんだよ!?」

「オレはてっきりそんなファッションなんだと思ってたぜ」

「そんな訳あるかーーーー!!」



んな事したらお母さんに泣かれると絶叫する彼女にグレイは噴き出した。



「ぶはっ……く、くく。おま………不良少女か。ははっ、確かにあの純情そうな人なら泣くかもなァ」

「笑うな不良少年! サボリ遅刻校則破りの常習犯が言えた事かっ!」

「茹でトマトみてーに顔赤くして言われても迫力ねーし」



はははは、と遂には床をバンバンと叩きながら爆笑し出すグレイに、レジウィーダはわなわなと拳を奮わせる。



「アンタは…………」

「ははははっ、あー久々に笑った………ごほっ………はっくしっ」

「……怒ったり笑ったり咳したりクシャミしたり………忙しい奴」



これで女の子に人気があるなんてとても思えない、と肩を竦めて首を振った。そんなレジウィーダの呟きが聞こえたのか、グレイは喉の調子を整えてフンと鼻で笑った。


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