A requiem to give to you
- 早朝の図書館(3/8) -



レジウィーダは机上の本の山から適当に一冊取りなから「そう言えば……」と呟くようにいった。



「誰があたしらを呼んだんだろうね?」

「知るかっ。つかそれ以前に、オレとお前以外に"門"を開けれねェってのに、どっちも"鍵"持ってないたァどういう事だよ?」



それにレジウィーダはうーん、となった。



「それもそうなんだよなー。ぶっちゃけ、異世界へ行った事があるのってあたしとアンタだけだろ? 一応」



そう、彼女達は過去に"門"を通り、異世界の地を踏んだ事があるのだ。勿論、その時は何が起こったのかわからず混乱もしたし、いきなり現れた二人にその世界の住人にも驚かれ、大変迷惑をかけた。他にも危険だらけでやっとの思いで帰ってきたのだ。

その経験があるからこその冷静さなのだが、やはり解せないモノはある。………それが"鍵"の所在についてと、何故"門"が開いたか、だ。



「"門"はいつもアンタが持っていた"鍵"がなければ開かない。だけど今はその"鍵"はなく、それなのに"門"が開いた。必然的に"鍵"の存在を知っていて、また"門"を開ける事の出来るあたしが所持しているのが正しい筈」

「でもお前も持ってねーンだろ?」



グレイの問いにレジウィーダは肩を竦めて頷いた。



「持ってたらこんな面倒臭い事になってないよ」



だからさ、と何かを思い付いたようにいつの間にか開いていた本を片手に持ったまま腕を組んだ。



「これは予想なんだけど、もしかしたらあたし達以外の人が"鍵"を持ってて、気付かない内に開けちゃったんじゃn「それは絶っっっ対にねーな」



言葉を遮り、絶対を強調させて言い切ったグレイにレジウィーダは「何でだよー」とふて腐れた。それに彼は鼻を鳴らして返した。



「元よりあの"鍵"はオ・レ・に!だけ反応する物だ」

「そりゃ、アンタは"門"の管理人だしね」



ああそうだ、とグレイは頷く。

彼は《ある時》よりあの"門"である樹と、"鍵"を管理していた。元が不慮の事故が原因で開いてしまった"門"から異世界を目の当たりにして以来、鍵を預かった彼は大事に保管していた……筈だったのだ。



「大体、お前も使えるっつっても、普通にしてちゃ使えねーだろ」

「まぁ、かなり凝った裏技だしー」

「凝るどころか、ありゃ人間技じゃねーし」



ピシャリと言われた言葉にレジウィーダはあはー、と空笑いをして本に視線を落とした。



「……とにかく、だ。"鍵"はオレ以外にまともに扱う事は出来ねェ。万が一にも扱えたなら、そいつはオレと全く同じ波長を持つ奴って事になるンだよ」

「波長……ねぇ。魂とか?」



本に目を向けたままレジウィーダが言うと、グレイは「有り得ねェ話だけどな」と返した。














「「………………」」



それ以降、特に会話のなくなった二人の間には微妙な沈黙が降りる。



「…………………」



レジウィーダの本のページを捲る音と、外からの鳥の囀りだけが嫌に大きく耳に入った。グレイは床に落ちている櫛を拾い上げ、再び髪を鋤く。



「…………あのさ」



ふと、レジウィーダが口を開き、話し掛けられたのでそちらを振り返る。すると静かに本を読んでいた彼女が目の前にいた。それに内心驚いていると、問い掛けられた。



「アンタ、その目どうしたの?」



さっきから訊きたかったんだけど、と続けられグレイは一瞬疑問符を浮かべたが、直ぐに意味を理解すると「あぁ」と手を打った。



「何か、こっちに来た時からこうなってた」



そう言ってグレイは自分の左目を指で示す。彼は生まれた時から両目の色は黒だ。しかし、今の彼の左目はその夜の闇を思わす色とは真逆の金色になっていたのだ。


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