A requiem to give to you
- 早朝の図書館(2/8) -



*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「ここだ」



あれから暫く歩き、漸く着いた場所は街の中心に聳え立つ大きな教会だった。扉の前に立つ二人の兵士はヴァンとディストの姿を見るや、直ぐ様敬礼をして扉を開けた。それに軽く頷いて教会へと入っていくヴァンに続き、レジウィーダ達もついて行く。



「私は用事を思い出したので失礼します」



最後のグレイまで入り、扉が閉じられると同時にディストがそう言い、振り向いた時には既にいなくなっていた。



「はやっ」

「まったく……相変わらず忙しい奴だ」



ポカンとするレジウィーダの横でヴァンは何とも言えない顔で呟くように言っていたが、「まぁ、良い」と直ぐに彼女達に向き直った。



「私も少し行く所がある。悪いが、暫く待っていてくれ」

「こ、ここで?」



こんな人がたくさん来そうな場所で待っていたら明らかに悪目立ちするだろう。それを予想したレジウィーダが困ったように問うと、ヴァンは「なら、図書館はどうだ」とその部屋に続く扉を指差した。



「あそこなら朝は殆ど人が来ない。それに、これからの事に何か役立つものがあるかも知れんぞ」



優しく諭すように言われた言葉にレジウィーダは腕を組み首を傾けて考えてたが、他に良さそうな所もないと言う事もあり、ややあって頷いた。



「わかった。じゃあ、図書館で本でも漁って待ってるよ」

「そうすると良い。……それとだな」



ヴァンは早速とばかりに図書館へと足を向けたレジウィーダを呼び止めると、彼女の背で眠るシンクとグレイの隣にいるフィリアムに目を向けた。



「シンクとフィリアムは私と共に来てくれ」

「え?」

「………何で?」



困惑気味なフィリアムに変わってレジウィーダが訝しげに訊くと、ヴァンは苦笑した。



「そういきり立つな。別に妙な事をする訳ではない。……ただ」



そこまで言うと、今度は少しだけ難しい表情になってレジウィーダ達にだけに聞こえる声で続きを言った。



「シンクもフィリアムも生まれたばかりのレプリカだ。出来て間もないレプリカの音素は非常に不安定だからな。その上、フィリアムはイレギュラーを起こしているのだろう? だから一応、精密検査を受けてもらいたい」

「ま、後で異常がありましたで死なれても嫌だからな。その方が良いンじゃね?」



グレイが前髪を弄りながら言うと、フィリアムは頷いてヴァンの元へと行った。レジウィーダも、「絶対に変な事しないでよ」と言ってシンクを彼に預け、今度こそ図書館へて向かった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







ヴァンの言う通り、早朝の図書館は殆ど人もおらず静かだった。朝の光が窓から入り込み、積み重なる本が所々でそれを遮る光景は中々神秘的と言えた。

部屋の中央にはこの部屋を暖めていると思われる石があった。赤く炎のように光るそれにグレイは直ぐ様近くに寄り暖かさを体感した。



「あったけー」

「この石がストーブの代わりになってるんだね。……エコやなぁ」



後から来たレジウィーダが染々言う。それにグレイはボソッと「オヤジくせェ」と呟いた。



「ちょっと、今何て言った?」

「別に……」



半眼になって睨み付けてくるレジウィーダを軽くあしらったグレイはポケットから鏡と櫛を取り出し、髪を鋤き始めた。



「いてっ」



しかし、一度濡れたのを放っておいた為か櫛通りは悪く、所々引っ掛かっていた。何度かは頑張って鋤こうとしていたが、いい加減苛々してきたらしいグレイはその内櫛を投げ出して愚痴を吐き出した。



「あークソッ、面倒臭ェ。……ったく、オレの自慢のセットをこんなにしやがって。……あんな所に飛ばしやがった奴、見付けたら只じゃおかねーし!」


.
/
<< Back
- ナノ -